2011-01-01から1年間の記事一覧

9-4

地下鉄を軽く短時間で幾つか乗り継いだらアートン校の場所についた。それは、マンハッタンの慌ただしい一角でビジネスライクな街の真ん中にあるような場所に建っているビルディングだった。地下鉄の出口から上がっていくと出てきた所にちょうど大学の校舎が…

9-3

飯塚くんが待っているというニューヨーク市立大学の分校であるアートン校という場所へ向かった。途中、両側に商店の多く立ち並ぶ古くから続くストリートのような所を歩いていたら、表にコートやジャンパーの売り物を並べている衣料品店があった。路上の方に…

9-2

究極さんが今日の予定を話してくれた。「まず。一つは、飯塚くんがかつて留学していたニューヨーク市立大学の校舎があるアートン校というところに遊びに行こうということ」 「へー。」 「そして今日はアイリッシュ系移民たちの伝統的祭りであるセントパトリ…

9-1

ニューヨークは重い天気の午後になっていた。リトルイタリーと呼ばれる地域を歩いていた。ニューヨーク市の天候なら朝は少し晴れていたようだがまだ不安定な模様であり、濃密な曇り空が上から降りてきて立ち込めていた。地図ではこの辺がリトルイタリーとい…

8-5

やっと朝になった。しかし何かが足りない気がしている。そうだ。究極Q太郎が帰ってくるだろう。寂しい部屋の中にずっと一人で耐えていたが、朝になれば究極Q太郎が帰ってくるだろうと思っていた。そう信じていた。こちらはベッドの中からあれこれ推測する…

8-4

また目が覚めたけれどもホテルの室内はもう明るくなっていた。古い木枠にガラスを張った重たい窓からは日の光が差し込んでいる。しかし目を開けても相変わらずこの室内には何もないことが確認されるのみだ。特に何の感慨も起きないが寂しい三月の朝には違い…

しかし「自然」の後にはやっぱり何も来ないであろう

1. どうも今月半ばに地震が起きてからというもの、夢心地の中で生活してるような気がしていてそういう気分が自分の書いた記事にも反映してるのかと思う。基本的に巷で今まで発表されてる論の調子は、ここでこそ日本頑張れ、今こそ日本復活だという論調が多く…

核時代の想像力、再びその意味を問い直す時

1. 昨日の記事で僕は、自然と世界が調和するポイントを知る、事後的で静かな世界観が、再び必要とされる、訪れるという趣旨を書いた。しかし、今回の災害以後のパースペクティブを考える限り、そして昨日当局から発表されたニュースとして、東京の浄水場の水…

チャイナシンドロームとホテルカリフォルニアの時代

1. チャイナ・シンドロームを見た。1979年に公開されたアメリカ映画であり、これは当時社会運動として台頭してきた原発問題をテーマにしたサスペンス映画であり、ちょうどこの映画が公開された直後にアメリカではスリーマイル島原発事故が起こったので、当時…

地震の夜

1. 地震が来た時は最初そんなに大したものとは思わなかった。自宅にいたが長い揺れだということは分かったので取り敢えず暫く大きな本棚を部屋の中で押さえていた。あんまり長く続くので倒れるならそれでいいやもう面倒くさいと思って部屋の隅で座り込み壁を…

8-3

夜中に何度か目が覚めた。唐突に、眠りの深みから何の脈絡もなく、空虚なホテルの部屋の表面に、波間から打ち上げられるように、押し出される。深夜に目が開く。しかしそこは何もない部屋だった。電気は消して寝た。だから木製で厚くて古く重たい不恰好な窓…

8-2

ここは古いホテルだった。キューブリックのシャイニングに出てくるような古いアメリカのホテルとでもいおうか。決して外観ではなくて内観のことだが。マンハッタンにあるビルとは古いものがそのまま残っている。ブルックリンの村田さんのアパートもそうだっ…

8-1

大学のある広い通りまで出てきてから、夜の暗がりがもうすっかりと降臨している街角でみんなと別れて、僕だけ逆方向へと歩き出した。夜の買い物でこの町の人達はよく動いている。店先からは明るい灯が通りに漏れていて、大型のスーパーマーケットのような店…

7-8

ウェストリバーを見に行ったら夜景が素晴らしいですよと飯塚くんが教えてくれた。それなら一回それを見に行ってからにしよう。マンハッタンの巨大な夜景を眺めたら、僕は薬を買ってホテルに帰って寝るし、後の三人はまた何処かへと夜の街に飲みに出て行く。…

7-7

「TOM'S RESTAURANT」という細いネオンで書かれた赤い文字が、店の上には控え目に光っている。そこは控え目で凡庸な、街にとっては古くからあるレストランのようだった。大きな窓から店の中の様子が見えていて、暖かく鈍い橙色の光が店内には満ちている。カ…

7-6

飯塚くんとはコロンビア大学近辺の地下鉄出口で待ち合わせた。究極さんがそう知らせてくれたが、ホテルのソファに腰から背中を埋めるように深く腰掛けていると、疲労の重い鉄板が頭を上から押すようにしているのを感じた。このまま体は溶けてしまって古いソ…