2012-01-01から1年間の記事一覧

16-2

歩きがマンハッタンの繁華街から遠ざかるにつれて他に人間が通るのも見かけなくなってきた。夜であり風が吹いており歩く自分を取り囲んでいるのは文字通りのアスファルトジャングルである。夜の時間といってもまだ浅く、決して人が途絶えなくてもよい時刻で…

16-1

さっきのポルノショップから逃れるように早歩きで退散をきめながら、夜の街に吹く風を体で切り分けるように歩いていった。マンハッタンでいま夜の帳に降りてきている風は、冷たい流れと温い流れが二つとも少々混乱しながら交じり合っているようなもので、夜…

15-7

天井から注ぐ安っぽく虚しいような白い電光の下にはずらりとポルノのDVDが詰まった棚が並んでいた。棚はジャンルに分かれそれがどんなものなのかランダムに手にとって見てはまた元の棚に戻していた。ダーティという形容詞が洋物の、特にアメリカ産のポルノに…

15-6

まー別に何のことはない。この店にあるポルノはごく普通のポルノだ。何の変哲もなく何のひねりもない。よくあるDVDのビデオによくありがちなグッズ。それだけだ。これは特に個性的な店でもない。奇妙な場所にポルノショップを見つけることがよくあるものだ。…

15-5

夜のチェルシーに見え隠れしながら浮かんでいる街並み。東京で言えば新宿歌舞伎町界隈のようなものであり少し歩けばタイムズスクエアの大きな交差点にもぶつかる。だからそういうシンボリックな中心から少しだけ隔たったエアポケットのような空間が漂う場所…

15-4

画面の中では週末の為に行われる大規模なイラク反戦デモのオルガナイザーが延々と何かを喋っていた。オルガナイザーの男は眼鏡をかけていて運動の現場ならばどこにでもいそうな男だった。地味な顔をした学生かインテリ。ただそのどこにでもいそうな人がしっ…

15-3

「そもそもニューヨークにカラオケ屋なんかあると思ったかい?」究極さんが僕の発言を思い出したように言った。「あれっ。カラオケは今や世界の共通言語じゃないのかい?今ではどこの国いってもやっぱりカラオケやってるしカラオケ屋もあるはずだ。もちろん…

15-2

百年以上ここチュルシーの一角で建っているはずという古い石造りのビルディングで、一階で一番奥にある細長いホテルルームは、ベッドが二つ壁にそってやはり細長く並べられており、部屋の最も奥には大きな窓があって外には猫の額のように小さな庭らしきもの…

15-1

その日の夜はチェルシーの一角で宿を取ることにした。といっても飯塚くんはやっぱり村田さんの家に泊まることは決まっているので、究極Q太郎が、地球の歩き方マップと対話するのに応じて、僕らにとって手頃そうな宿を決めてもらった。大きな繁華街だが新し…

14-4

店の通り側に面した窓ガラスの辺りには、グッズが並んでいる。そこにはチェ・ゲバラの顔が入ったポピュラーなTシャツや、何かスローガンの入ったキャップなどが普通に売られている。そして様々なフライヤーが何枚も置かれている。それらフライヤーにはニュ…

14-3

「ねぇちょっと。あそこの女の子。あの子さっちゃんに似てないかい?」背の高い古いにおいのする木の本棚からアルチュセールの英書を手にとって眺めていた究極さんの背後で僕は言った。「どれどれ?」 究極さんはそっちの方向へ目を向けた。 「ほんとだ。似…

14-2

フロアの中央ではけっこうな旧式ストーブが火を灯しているのが見える。脇のテーブルにはコーヒーを入れられるコーナーもあった。ストーブと小さなやはり古いラジカセを囲んでソファが一回り置いてある。そこのソファでは客たちが寛いで雑談できるようになっ…

14-1

チャイニーズの遅めのランチを終えた後、僕らはまたチャイナタウンから歩き出し、マンハッタンの賑やかな街の方向へと歩き出した。空はよく晴れていたが気温はずっと低く、風も強く、少し歩き出してきつくなりそうだったら、ところどころモグラの穴ぼこのよ…