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歩きがマンハッタンの繁華街から遠ざかるにつれて他に人間が通るのも見かけなくなってきた。夜であり風が吹いており歩く自分を取り囲んでいるのは文字通りのアスファルトジャングルである。夜の時間といってもまだ浅く、決して人が途絶えなくてもよい時刻であるとは思うのだが、ネオンの街から少し遠ざかってしまうだけで状況は一変してしまうような街並。これもマンハッタンの特徴にあげてよいのだろうか。少なくとも日本ではこんな極端な都市はお目にかかったことないような気がする。

究極さんから渡された住所を書き付けた紙切れを手に、幾つか道を迷いながら、しかしどうやらそれらしいビルディングの元に辿り着いた。ここまで歩いてくるのだけでも結構疲れたような気がして足はそれなりに筋肉が張り詰めてピンピンと断続的な悲鳴のような信号を訴えているのも感じていた。しかしビルの一階エントランスのところで僕は立ち止まりどうやってここに入ったらよいのか戸惑っていた。ビルが共有している入口のドアはガラス張りだがロックは厳重にかけられてあり、ドアの中は夜らしく電灯の節約された室内の廊下が薄暗く照らし出されていて、受付用のデスクのようなものも外から見えるがそこには誰も人がついていなかった。無人の廊下が外から伺えて、寂しいフロントの場所にはエレベーターもついているのが見えた。

外側からビルの内部を眺めながら焦っていたのだが、僕の後ろから白人の男女二人組がやって来て、彼らは慣れたようにビルの壁に取り付けられている通話機をいじくり女性の声を呼び出した。Brecht Forum?僕が彼らに尋ねると、YESとの回答が返ってきた。

自分もブレヒトフォーラムにいきたいのだと彼らに告げた。白人の男女は特に僕を警戒する様子もなく受け入れてくれた。するとガラスのドアから自動的にロックが解けたようだ。手を出してドアを押してみるとスルスルとドアは前へ開いた。エレベーターに白人の男女とともども乗り込んだ。最初は冷たい鉄の感触で立ち塞がるビルの入口の何も無さに戸惑ったがうまくフォーラムのビルに入ることができたのだ。