14-4

店の通り側に面した窓ガラスの辺りには、グッズが並んでいる。そこにはチェ・ゲバラの顔が入ったポピュラーなTシャツや、何かスローガンの入ったキャップなどが普通に売られている。そして様々なフライヤーが何枚も置かれている。それらフライヤーにはニューヨークの細かな情報やイベントの案内書きが数限りなく書きこまれて詰まっているのだ。究極Q太郎は、いつものように、日本でもそうやっているように、そういう街の細かなアンダーグラウンドサブカルの情報を示しているようなビラ書きを見つけると、丁寧に拾うように集めていた。究極さんはいっつもそういう、マイナーで奇妙あるがゆえに面白いというような情報を拾って見つけるのが好きなのだ。店の中央には古いストーブが小さくて控え目で安全そうな火をともし、その周りには古い白いソファがあって、白人の髭を生やしたおじさんが二人、よく見れば彼らはもう結構なお爺さんかもしれないような微妙な顔つきだが、何やら英語で雑談していた。一人はキャップを目深に被り髭を蓄えた顔で、素顔の表情がうまくカモフラージュされているような、オールドボーイといった風情だった。そしてゆったりとした古いソファでは、フリーで熱いコーヒーも飲めるように横のテーブルについている。ここは、ゆったりとしたそれなりに居心地の良さ気な本屋だった。

「この店の看板に出ている革命書店という文字は、中国語なのかな、日本語なのかな?どっちの積りなんだろう」

僕は、雑談している古い白人男たちの、ニューヨークの古くからの左翼ともいえる雰囲気をそれとなく観察しながらソファに座り、そしてフリーのコーヒーを啜りながら言った。

「うーん、それはどっちとも取れるような曖昧な店名だよね。しかしそういう店名も何かのオリエンタリズムなんじゃないの」

ソファの隣で村田さんが言った。やはり彼女もフリーのコーヒーカップを手に支えている。

「そういえば店の手前で平積みにしてある本だけど、何か特定の作者の本で聞いたこともないような名前の人の本がずっと並べてある。何か党派の本じゃないのかな?あれは。ニューヨークローカルの。」

「それじゃあここもどこかのセクトの本屋ということ?」

村田さんと僕は日本語で会話してるからたぶん周囲のアメリカ人は何話してるかわからないのだろうから、この店についてどんな不穏な意見を交わしても言いたい放題の空間だった。

「まーなんか変なセクト臭もする本屋だよね。しかしアメリカでそういう左翼系のグループがどういう生態で存在してるのかはちょっとわからないや」

「ここの本屋はアメリ共産党なんですよ」
すると後ろから飯塚くんが日本語で返してくれた。
「なんだそうだったのか。伝説のアメリ共産党だったのか。」
僕は飯塚くんに振り向いて笑った。
「しかしなんだかただのカルト書店という感じのしょぼさだな。この店の有様は。もう笑っちゃうくらいにしょぼい。そして如何わしい。まーしかし、アメリカにおける共産主義の実態なんてそんなものなんだろうな。」

「そうね。ちょっとしたカルト宗教がやってる店と変わらない位だよね。」
村田さんもニヤニヤしながらそう頷いたのだった。

コーヒーテーブルに置かれた古い黒いラジカセからは相変わらずボブディランの声が流れ続けている。若い頃のディランに特有でありがちな、気の抜けたビールの様なフォークソングだ。無意味に泡が湧いて出るような黒いラジカセ。