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その日の夜はチェルシーの一角で宿を取ることにした。といっても飯塚くんはやっぱり村田さんの家に泊まることは決まっているので、究極Q太郎が、地球の歩き方マップと対話するのに応じて、僕らにとって手頃そうな宿を決めてもらった。大きな繁華街だが新しい輝くような鉄筋の建築物と古い石造りの建築が交互に並んでいるので奇妙な感じの拭えないチグハグな街並みだった。少し路地を入ったところは特にここが巨大な繁華街だというイメージもない。普通の石で並んだストリートだ。だから見間違うほどだ。究極さんがこの繁華街の中で選んだ宿は、少し路地を入ったところの表の喧騒の音がそこでは一回りか二回りボリュームが小さくされるような窪んだ一角にあった。やはり石造りの古いビルディングである。しかし石造りの古さと現代的な鉄の輝く柱のイメージが変に入り交じったもので、その辺の窪んだ隅には風俗の店なんか入っていても不思議無いような角もあるし、ビルの一階には飲食店を開いてる所も数多く並び、立ち止まってよく念入りに調べてみれば、掘り出し物のような旨いグルメ店でも発見できそうな、そこでは何が出てくるか分からないようなワクワクした感じも歩いているとしたのだ。目的だった地味なホテルのドアをくぐり、エントランスのところで、スリムで渋い身なりに身を包んだ女性の係員と交渉してすぐに決まった。値段は一泊80ドルほど。コロンビア大の裏で泊まったときは39ドルだったからあそこより二倍ほど高いか。夕刻のまだ暗闇が街に訪れる前に宿は決まった。街の方角を仰ぐと夕方の巨大な喧騒で街がいきり立っているようなイメージを感じ取る。落ち着きのない巨大な繁華街の震えが伝わってくる夜の帳の時間帯である。古いホテルの一階で一番奥の部屋が僕らの部屋だった。前回の宿よりは幾分かそこは広いし整っていた。テレビも壊れている気配はない。ちゃんと見れそうだ。そしてこんどの部屋は部屋の内側にバスルームもちゃんとついていた。フロントの所においてあったこのホテルのパンフレットを手に取りながら、細長い部屋に二つ並んで置かれたベッドの片方に腰を下ろして眺めていた。

「ここのホテルは、since 1882って書いてあるよ。1882年から営業してるんだな」

「ふーん。そういえばそこのバスルームから女の人のお化けでも飛び出てきてもおかしくないね」

ベッドルームの反対側に薄暗い窪んだ一角があり、姿鏡が壁に取り付けてあって奥にはバストトイレットのある部屋が開いていた。

「もう百年以上昔ということだけど。そもそもこの建造物がその頃最初からホテルをやっていたのかどうかさえ分からない、疑わしいじゃない」

「最初はこの建物も普通のマンションとして人が住んでいたということかい?」
「そう。そこまで歴史が古いともともと何に使っていた建物なのかも定かではないよ」

「そこのバスルームになってるあたりで、ドアの把手を利用して百年前に人が首を縊って死んでいたこともあるとか?」
「うわっ。ちょっとやめてよ。それ洒落になんないよ」

究極さんは真に気持ち悪そうにして顔を歪めた。