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天井から注ぐ安っぽく虚しいような白い電光の下にはずらりとポルノのDVDが詰まった棚が並んでいた。棚はジャンルに分かれそれがどんなものなのかランダムに手にとって見てはまた元の棚に戻していた。

ダーティという形容詞が洋物の、特にアメリカ産のポルノには多く支配的なジャンルを示しているように思えた。洋物といってもそれは日本人の市場と感性に対して洋物だという意味だが、やっぱり何かそこの市場には、日本とアメリカと、何か決定的な違いがあるのだ。それではアメリカとヨーロッパの市場に対してはどうなのだろう。そこにも何か微妙な差異はあるような気がする。しかし、アメリカでの市場の価値とは、ことポルノの市場においても相当に支配的だ。大体made in USAで流れだす最も合理的に廉価な商品の単位が、そこから南米にもヨーロッパ市場にも、そしてアジアにも、インドにも、中東にも、アフリカにまでさえも流れているのだろうから。そこではそういう商品のパッケージの形態が、そのままポルノに対する一般的なイメージにも支配的な見せ掛けを作ってしまう。一回そういう支配体系ができてしまえば、消費者の方でも単純にそこにある価値の流れには従ってしまう、というものだ。ポルノのイメージにとって、商品が先なのか消費者の嗜好が先なのかという話だが、こういう歪に裏から裏へと流通することを余儀なくされる市場では、何気に商品のほうのヒエラルキーが先に高いのではなかろうか。

そんなことを何かとりとめもなくぼんやり考えまがらポルノDVDの棚を見て回っていたのだが、そんな僕の行動が落ち着きなく不審に思われたのだろうか、さっきの中東系で浅黒い顔をした店のセキュリティガードと思しき男が、足早に僕の前に詰め寄ってきた。

浅黒い男は、顔を横に傾けながら何やら早口に僕に対して文句を言い出した。よく見ると文句を言いながら口元は忙しなく咀嚼を繰り返していて要するに彼はガムを噛みながら喋っているのだ。手は両側の棚を掴むように立ち塞がり、しかし背は低い浅黒い男だった。ぐちゃぐちゃ何を言ってるのか聞き取るのも面倒くさかったほどだが、考えながらポルノショップの棚を見回っていた僕の動きは余程不審に思えたのだろう。相手の立ち塞がったセキュリティの方も何だかチャラチャラとした落ち着きない男だった。セキュリティといっても別にそういう制服を着ているわけではないから、ここでは用心棒の男とでも言ったほうがいいのか。僕はこいつの話を聞くのも面倒くさかったので、手を振り切るようにして身をかわし、即座にこのポルノショップを出ていった。

早足で、因縁などつけられたら嫌なので素早く勢いを蹴って、この店から遠ざかっていった。チェルシーのストリートの片隅で、人々は相変わらず夕刻の乱雑な空気の中を多く歩いていた。この雑多な人々の流れと淀んでいるが何か生ぬるいような空気の中に、僕が再び同化するまでは特に時間もかからなかった。こうしてニューヨークの片隅で名無しの存在でいることの快楽に、しばらく浸っていたかった。