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夜のチェルシーに見え隠れしながら浮かんでいる街並み。東京で言えば新宿歌舞伎町界隈のようなものであり少し歩けばタイムズスクエアの大きな交差点にもぶつかる。だからそういうシンボリックな中心から少しだけ隔たったエアポケットのような空間が漂う場所といえば、いま僕の歩いている場所は新大久保の雑踏だとかいう辺りに認識するのが正しいだろうか。新宿駅から大通りを避け裏道を辿るようにして隣の町に抜けようとする場合、西新宿の雑多でありながら妙にチープで入れ替わりの激しいような小さな店が立ち並ぶ通りを抜け、いかがわしいようなホテルから安い旅行者のためのホテルなどが並び、そこからもう一段妙に場所の価値が高いのか低いのか意味わからないような東アジア系外国人の街に踏み入るように、ニューヨークの街並みにおいてもシンボリックな中心を取り囲むようにして在る中間地帯のような場所は、ある種の如何わしさと立地の内容の意味不明さに満ちていた。

そんな入れ替わりの激しい伽藍としたボックスのような隅々のさり気なく開いている店で、いかにもそんな立地にふさわしく、その区画だけ時間性の消滅しているようなポルノショップの店が開いていたのだ。

ニューヨーク産のポルノがどの程度のものなのかに僕の好奇心が幾許か過ぎった。少々小さめでわかりにくい、開けっ放しのドアを潜ると、中の照明は眩しさが虚しいように白く、白い蛍光灯の光に照らし出されたシンプルな店内があった。レンタルビデオ屋のような棚にポルノのDVDがずっと並んで縦横に詰まっている。壁の方には弱冠グッズを置いている。性戯の際に使われる幾つかの分かりやすいグッズだ。店内の棚を物色している客はそのとき男性客しかいなかったように思う。

しかし一段高くなったレジの席に座ってる店子は、黒いレザーを肩に羽織った女の子で、彼女は白人で、かといってブロンドというわけではなく、日本人の黒髪のように濃い黒で、しかし顔の色はその健康を疑ってしまうほどにも真っ白である。なんというか肌の白さが人工的でまるで黒いボンデージに身を包んだアインドロイドがそこの店子に座っているかのように。髪は肩のところでさっぱりとまとめられ、よく見ればかっこいい顔をした白人女性だったかもしれないが、終始俯きがちにレジの前の椅子に座ってるので、何か不機嫌そうに店子に座っているようにも見えた。白人女性の顔に上から反射する白い蛍光灯の白々しさは、更に人の気分を憂鬱にするような要素も照らし続けていた。店の中で一段高くなったレジのポジションに座る彼女だが、その感じは何か、日本の銭湯で番台の所に座っているのにも似たようなポジショニングのレジだった。

時おり彼女の横になれなれしく話しかけにくる色の黒い顔をした中東系の男がいるが、どうやら彼は客ではなくこの店のスタッフみたいだ。店内で何か変なことをやらかすおかしな客が出た時のための、あの中東系の安っぽいジャンパーに身を包んだ男がセキュリティガードの役目も兼ねているのだろう。