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フロアの中央ではけっこうな旧式ストーブが火を灯しているのが見える。脇のテーブルにはコーヒーを入れられるコーナーもあった。ストーブと小さなやはり古いラジカセを囲んでソファが一回り置いてある。そこのソファでは客たちが寛いで雑談できるようになっている。それは古くからここにあったような本屋であり、マンハッタンの繁華街の脇道に逸れた場所にさり気なく位置する。店内の人は疎らだが、決して人の訪れが途絶えているという感じはしない。いつでも何がしか同じ様な種類の同じ様な人々が、そこには出たり入ったりを繰り返しているかのような店だ。しかし店自体の存在は古く、この場所で相当昔から営業してるのだろうという空気は湛えている空間だ。高い背をした本棚が壁際から店の奥行き深いところまで続いている。壁は高い背の本棚に囲まれ、その間の空間には中位で人の背よりもいくらか低い本棚が、幾つか規則的に矩形の列を為している。本はジャンル別かあるいはアルファベット順で並び、その大きな本棚の列を、ざっと順番に眺めていった。新しい思想の本もあるにはあるが、しかし本当は埃を被って眠っているかのように見える古い左翼関連の本こそが、この本屋にとっては主体だというように見えてしまう。本当にこんな本を今でも手にとって見る人々はいるのだろうか、しかしこういう古い観念の本がそこになかったら、この店自体が存在している意義まで失せてしまうといったような、微妙なる存在感の本棚の数々だ。客が本を見ていると声を掛けてきて案内してくれるような人が、どうやらこの店には二人ばかり動き回っているようだ。一人は背の低い、とてもボーイッシュな感のある、ジーパンに髪の毛を長く垂らした、落ち着きのないようによく動く女の子。もう一人は背が高く眼鏡をかけた立っているとよろけそうな感じのひょろひょろした白人の青年だ。女の子の人種は微妙な感じで厳密にはアメリカ系なのかアジア系なのか分からないような顔つきだったが、アメリカでは普通によくいそうな女の子だった。