ニール・ヤングの『DON'T BE DENIED』

ニール・ヤングの傑作アルバムというとき、人によって相当意見が分かれると思う。ニール・ヤングの浸透力というのは奇妙に広汎な範囲に渡っているからだ。ニール・ヤングが人を惹き付ける力の正体とは何なのだろうか。ある種のaddiction中毒性を持ったスタイルの歌声であり反復性のメロディである。だから逆に、ニール・ヤング的なものに対して拒否症状が出るときも素早いのだろう。センチメンタリズムの描線が続いてることを、自己の内部から他者にかかりそこから広く伸びていく共同的なラインとして前提にしていなかったら、ちょっとニール・ヤングの聴衆というのは成り立ちそうにない。一つ間違えれば、自分の抱えているスタイルが石を投げられたり嫌われたりいじめられたりすることを、自分でも十分に熟知しているからこそ、ニール・ヤングの面影とは、いつも何か怒りを何処かに控えているような近寄りがたさをオーラとして発しているのではないだろうか。こんな変人としてのニール・ヤングに興味を抱く人も多い。最近の例だと、ニール・ヤングのライブを追行取材したドキュメンタリー映画を撮ったジム・ジャームッシュがあげられる。『Year of the Horse』というドキュメンタリー映画になったが、自分たちのツアーバスに乗り込み、ドイツやギリシアとヨーロッパツアーの旅を続けるニールのバンド、クレイジーホースを追っている。映像の色彩はモノクロームの調子が多く使われている。曇り空の下、雨の降りそうな暗さの中で、ヨーロッパの田舎道を延々と走り続けるバスの中のバンドの姿をである。ニール・ヤングの発している奇妙な文学的雰囲気、文学的情緒性について、そこから発する重力に惹き付けられる人々は、世界各国にありうるのだ。ニール・ヤングというだけで、それはもうある種の世界共通言語に成り得るのだろう。中国やロシア中東やアフリカの人々が、ニール・ヤングという病に感染したとしても、何の不思議もなくその姿は想像される。

ニール・ヤングのメッセージは強い。そしてひたむきである。これがニールの支持される要素である。ニール・ヤングの傑作アルバムを選ぶとしたら、どれにするだろうか。『HARVEST』だろうか『TONIGHT'S THE NIGHT』だろうか『AFTER THE GOLDRUSH』だろうか。僕があえてあげたいのは、たしか73年頃のライブアルバムだが『TIME FADES AWAY』というのがある。これは入手するのにレアなアルバムで、いまだCD化になってないし、元々マイナーで、僕は昔、大阪にいったときにたまたま中古屋で入手したビニール盤だったのだが、しかしこのライブの濃縮度はすごい。このアルバムを推す熱狂的なファンは多いのだ。僕もはじめて聞いたとき、ちょっと吃驚した。この曲は『TIME FADES AWAY』に入ってる曲だが、それとは別のの演奏で、これはクロスビー・スティル・ナッシュにゲストで来たときの演奏である。『DON'T BE DENIED』という曲。ニール・ヤングオーディアンスに向けて発する暗黙のメッセージとして、この曲の伝えるものが最も本質的なものであるのではないかという気がするくらいだ。

そしてこの曲もまた、ニール・ヤングとは誰であるのかを説明するのに最も相応しい曲となったものだったろう。ザ・バンドのラストワルツに出演したときの、有名なあの映像である。センチメンタリズムの極とは、まさにここにある姿なのであるが、良質のセンチメンタリズムが、いかに人にとっては根底から深く、渇望されるものであるのかを、世界の中で唯一、ここのニール・ヤングだけがうまく説明しうるのではないだろうか。