ストラトキャスターがかつてはギターの王様だった時代があるのだな。70年代に。

ストラトキャスターを弾きこなすための独自のテクニックを調べていて気がついたことを書いておこう。前述のようにフェンダー社の今まで誇ってきたオリジナルストラトキャスターのスタイルとは、21フレットのネックを基本として維持していた。しかしフェンダー社の方針も、エレキギターにおける他メーカーの追随によって商業上、そのような古典的な方針は転換が迫られたもので、実際には今では22フレットのストラトも発売するようになっている。結果、21フレットのスタイルのストラトとは古典的ストラトとして、メーカのラインアップの中では販売が維持されているのが現状である。

50'sストラト、60's、70'sといったタイトルで今でもこれらのストラトは市場の中では一定のブランド的地位を保っている。フェンダー社の商売上戦略として、22フレットのストラトが最もよく売れるのはわかっているので、事実上22フレットストラトを売るのはフェンダーUSAのブランドにおいてだけなのだ。フェンダー社は世界中の市場でギターを売るために、USA社のものより安価に手に入るフェンダーとして、フェンダー・ジャパンとフェンダー・メキシコという子会社を自社ブランドの中に創設したのだ。安価でよく出回っているのはこれらジャパンやメキシコ製なのだが、しかしこれらは21フレットのストラトしか殆ど売らないような仕組みになっている。消費者には22フレット使えるストラトが欲しければ、割高だけどUSA社のものを買えという仕組みができているのだ。これは明らかにフェンダー社のブランド的な戦略であるのだが。

そこで腐ってもやっぱりストラトの弾きやすさが好きだ、という金のない消費者にとっては、21フレットを使うのもやむをえない話であって、21フレットでいかにうまく使いこなすかという課題がそこには横たわっていることになるのだな。もっともフェンダー社でも22フレットの発売に踏み切ったのは80年代の終わり以降のことだからね。それまではストラトとそれからテレキャスターにとっては、フェンダーを絶対弾きたいというプレイヤーは嫌でもこの21フレット性というのに甘んじて従わざる得なかったわけだ。それでももっとフレット使いたいというマニアは前からもちろんいたけど、そういう人たちは自分で改造してネックを付け替えるとかいう手段しかなかった。

エレキギターの場合は大きく分けてフレット数で分類すると、21F系と22F系と24F系の三種類に分かれます。それで最も一般的なスタイルは22F系にあたります。アメリカでフェンダー社のライバルにあたっていたギブソン社のエレキギターはまず殆どがこの22Fが基本になっています。24Fというのは、わりと最近になってから出てきたスタイルで、ギターのスケールにとって12フレットで一オクターブにあたっていることから、これは二オクターブ分ネックで使えるようになっているんだけど、マニアックなプレイヤーにしかこのスタイルは浸透していないですね。サンタナスティーブ・ヴァイのようなマニアックプレイヤーは24Fスタイルのギターを使ってますが。フレットを多くすると必然的にネックが長くなるわけで、しかしギターという楽器にとって長すぎるネックというのは好かれないんですね。ネックが長いとそれだけ反る確立も大きくなるわけで、また取り扱いもめんどくさく、小回りがきかなくなるし、重くなってしまいますから。

エレキギターにおいてスタンダードにソロまでこなすためには合理的なのは22フレットです。これは一オクターブ、プラスして10フレットまで使える。21フレットは、プラス9ということになるんだけど、9個、オクターブの上に存在していてもどうもこの数は半端で不釣合いになるんだよな。オクターブ、プラス9というのは弾き方にとってあんまり合理的な根拠はないわけ。やっぱり自然にソロの音階が納まるのは22であるとしか思えない。21フレットでソロを上のほうまで伸ばしていっても変な切れ方をしてしまう事が多いです。

しかしそれでもこの禁じ手をかけられたフェンダーの21上で頑張った人というのが70年代には多かったんだな。クラプトンとかリッチー・ブッラクモアとか。70年代はなんといってもストラト全盛の時代であって、ストラトはギターの王様みたいに扱われていたわけ。そのようなストラトの神格化されたイメージを生み出した元祖はもちろんジミヘンでした。ジミヘンの死後に、クラプトンもブッラクモアもジェフ・ベックもみんなストラト弾きに転向します。ジミヘンの以前にはストラトというのは逆に、中途半端で変なギターだと思われていたんだよな。トレモロアームんなんて何の為についてるのか、みんな訝しがっていたわけ。ジミヘンやディープパープルのリッチーのパフォーマンスの影響がその後大流行することになるんだが。その前はテレキャスターのほうが圧倒的に人気があったんだから。

ここでストラトの代表的プレイヤーとしてのクラプトンと、ギブソンレスポールの代表的プレイヤーとしてSLASHの、ソロプレイについて比較してみよう。

オクターブ+9のストラトとは、ソロで上にあがっていくのには明らかな半端な端数が出るんだよね。それでクラプトンはそこをどうカバーして弾いてるのかというのと、クラプトンの場合はソロを始めるときの起点となるベース音が、1弦の10フレットのDの音から始まるんだな。これに対してレスポール弾きのスラッシュの場合は、大体ソロを1弦12フレットのE音、つまり一オクターブちょうど上のところからベースにして始めるのが多い。ストラトで1弦10Fから始めれば、残り11Fがソロで自由に展開できる。これに対して1弦12Fから始めるとレスポールの場合残り10Fの展開の幅がある。

クラプトンは故にキーをDにしてる曲が多くなるわけです。典型的なのは『レイラ』だよね。レイラの有名なイントロはDで指を循環させるフレーズを上のほうとベースのほうと交互に繰り返しています。まさに1弦10fのDを使うのと、下のほうではオープン(4弦0f)のDを動きます。

対して、スラッシュの場合はキーをEに置く曲が多いです。(スラッシュの場合はチューニング自体を半音下げるときが多いので、正確にはE♭ですが)代表的なのは『Sweet Child O' Mine』ですね。あの曲のソロとは22フレットないと綺麗に弾けない様に出来上がっています。しかしギターの性質にとって、スケールの構造上、最も合理的で自然な弾き方ができるのは、やっぱりEをベースにするときなんだな。Eベースならばオクターブ分(12音)をそのまま間隔にできるわけだから。