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こうして僕の前にはまた突如として暇な時間が開けてしまった。体調は相変わらずきもち悪いし外へ出れば気温は相変わらず零度以下だし、何したらいいのかわからない。しかし体は弱ってるのでそれでも一人で休んでるのが最も幸いだった。外は変な天気だ。また雪が降ってきても不思議はない。それでこの学校がどうなってるのか観察していた。カフェから出ると横に図書館へと続く通路がついていた。ニューヨーク市立大学の図書館がどんなものなのか興味はある。なんとかあそこの図書館へ潜り込めないものだろうか。時間をつぶすには絶好のポイントになることだろう。そう僕の中でとっても興味津々な気分が高まってきたのだ。学生達は忙しなく通路を行き交う。このスピードの速さは日本の大学でもちょっとお目にかからない速さだという気がした。なんで学校の中をそんなに速く歩きまわらなければならないのかさっぱりわけが分からない。通路に立ち止まって観察したりぼんやりしていたりするのも学生の性質かと思うが、そんな立ち止まってられるような悠長なスペースさえもがこの学校の建物の中には全く用意されていないのではないか。何処にいてもこの学校だと、立ち止まっていて意味のあるような場所は見当たらないといった風だ。教室が上から下まで並んでいるメインの学館の横に渡り廊下のようにして隣の図書館の建物がついている。その渡り廊下を学生に混じって歩きながら、図書館の入口に近づいていく。LIBRARYの渋く刻まれて光る銅板がその入口には掲げられている。そして入口の前にはセキュリティガードの男が一人いて入館者をチェックしているようだ。僕はさりげない顔をして図書館の前まで近づいていった。何気ない顔をしてそのまま学生の後に付いて入口に入ろうとしたら、ガードの男が静かに立ち塞がった。目で合図もしてるが僕に学生証を要求してるのだ。僕はにやにやしながら立ち止まり、両手を上げる素振りをした。ガードの男もやはり優しそうな顔はしているが、同時に首を傾げ残念そうな表情をした。ダメなの?という風に、僕は手の仕草で示してみた。ダメだ・・・ノー、という頑なな態度を、優しい笑顔を決して崩さずセキュリティガードの男は浮かべた。そうか?という風に僕は無言でジェスチャーをし、残念そうな顔を作って、入口の前を退いた。渡り廊下を後ろに向かって歩き出しながら、でもあのセキュリティガードの男はいい奴だな。ニューヨークというのはああいういい奴が多いのだろうか?と心の中で思っていた。ニューヨークというのはやっぱりとても楽しそうな街ではないか。