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学生達のカフェで、並んでいる列に混じって、コーヒーとケーキをトレイに載せて、レジで料金を払い、できるだけ端の方へと歩いていき、テーブルに座った。カフェの隅の部分から、この大学の賑わう声が雑多に立ちのぼっている中で、人々の顔と表情を観察できた。究極さんによると、アイリッシュの祭を見に行きたいという。セント・パトリック・デイといって相当有名な祭らしい。僕もその言葉について頭の何処かに聞いた記憶があるかもしれない。

「なんでそんなの見に行きたいのさ?セント・パトリック・デイか。・・・そんなに重要な祭りなのかい?」

「うん。前から知っていたよ。アイリッシュの移民は多いからね。アメリカ人の社会ではいろんな場所に要所要所、アイリッシュが幅をきかせている。ぼくは祭を見たいなあ。」

しかし、僕はどうにも体調がいまだたるいのだ。究極さんと飯塚くんを前にして僕はそう訴えた。

「どうしようかなあ・・・。からだはだるいし、また熱がぶりかえして上がってくるかしれない。・・・それじゃあ僕はこの場所で待ってるからさ。究極さんと飯塚くんで祭を見にいってきなよ。僕はこの大学で待機して休憩してるよ。というか、どっかいい場所を見つけて寝ていたいなあ。」
「じゃあそうしようか」
究極さんは飯塚くんと顔を見合わせて言った。

「何時間、行ってる?時間を決めて再び合流しよう」
「そうだな。じゃあ3時間後に、またここへ戻ってくるよ。」
「わかった。3時間後ね。それじゃあ僕は待ってるから。行ってきてよ」
「それから、今夜はそれから村田さんの働いてる飲み屋へ行くんだよ。イーストソーホーの日本人居酒屋で村田さんが働いてるから。今夜はイーストソーホーに行こう。」
「それが今夜の予定か。・・・で、その後は村田さんのアパートで泊まれるんだっけ」
「そういうこと。今夜はイーストソーホーだね。くりちゃんはだから、ここで安静して体力を蓄えておいてよ」
「うん。わかった。それじゃあ行ってきてよ」

究極さんと飯塚くんは、それで再びアートン校の外へ出て行ったのだ。ひとり2階のカフェで取り残されたような感じだが、学生達のざわめきの中にいて、一人で観察しながらぼおっとしているには、ちょうどいい具合だと考えられた。僕の取り残されたシチュエーションだが、ちょっとした好奇心に駆られて、周囲の光景をぼんやりと見回していた。窓の外には重い曇り空の下にマンハッタンの街が佇んでいる。重くて憂鬱な空の色だ。こんな日にはひとりでぼんやりしているのが一番気持ちいいのかもしれない。