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アートン校という場所だが、専門学校か予備校というのが相応しいような手頃な大きさの古いビルだった。ただ学生達や教員達のざわめきから漏れる息吹をそこで感じれば、その一角が異様にエネルギッシュな精気に満ちた場所だというにおいも感じ取れるだろう。空は曇り空が立ち込め寒い日の昼過ぎだが、大学の古い校舎のその一角は賑やかなエネルギーが出たり入ったりを繰り返していたのだ。この旅から帰った後にある日、僕はインターネットの中のニュースサイトで、このアートン校にマドンナがレクチャーをしに訪問したという記事を見つけた。あのアートン校かとふと感慨がわいた。つまりそういう文化的拠点としてマンハッタンで承認された学校の校舎なのだろう。コンクリートのビルだが白い壁に滲んでいる年季が入った汚れも渋く味がある。ガラスの回転扉から建物に入るようになっているが、セキュリティチェックが厳しい時もあると飯塚くんが言った。この日は飯塚くんの後に従ってうまく僕らはクルクル回る扉の隙間を即座に入って済ませた。ニ階に階段で上がるとカフェテリアがある。学生達でごった返し空気は完全に大学のものだ。テーブルには学生達の間に教授のような白髪の大人たちも混じり、一緒に食事をとっている光景だった。賑やかな話し声が何重にもなって建物の中にざわめいている。普通の大学だ。しかし都心の一角のさして大きくもないビルの中味がそのまま大学になっている様子は、日本だとやはり都心にビルを構える予備校や専門学校にありそうな雑多な煩さにも見えた。とにかくこのビルの中にいるすべての人々は忙しそうで元気をよく発し、そしてうるさそうな感じがした。白髪の教授が何やら皆に話しをしながら食事をとっているカフェテリアの後ろには、窓からマンハッタンの都心の風景が、灰色の雲の下で浮き上がって見えている。ニ階にカフェテリアがあり、人々は主にエレベーターを使って移動を繰り返し、女の学生も男の学生も脇にはノートやファイルをはさみ、上の階はこのビルディングでずっと教室になっているし、カフェの横には古く汚れたソファを何台も連ねているような休憩所があり、そして横のほうには図書館へ続く通路がついているようだ。