民主党的認識と経済の行方

民主党政権が日本で発足して、早速様々な局面において舵切りを試される事となったが、殊に経済の局面において、まず微妙な現象が起きているようだ。今、急激な円高の波が来ている。先週末のニューヨーク相場からドル円が90円台を切り80円台に突入した。現在では90.00円を境にしてドル円は行ったり来たりの鬱陶しい相場を続けている。

ドル円市場における80円台というのは、経済バランスの調整的なメルクマールとされている局面である。90円を割り込み80円台をつけると、日本の大手製造業の分野にあるトヨタやホンダやソニーにとって、各々200億円から2億円の損失が出ると考えられているからだ。

だから為替相場においてドル円が90円台を切るか否かというのは、重要なメルクマールとして注目されるポイントである。今回80円台に割り込んだ切欠を作ったのは、新しく財務に就任した藤井大臣の発言である。最初に彼は、円高には特に介入する必要を考えていないという、円高容認とも受け取れる発言をした。藤井さんというのは大蔵大臣を経験してきたこともある年寄りで、大臣としてベテランに見えるのかもしれないが、しかし不用意な発言だった。それがとても経済現象の現実を知っている人物の発言には見えなかったからだ。

為替相場を動かす基準というのは奇妙なもので、有力大臣のちょっとした発言とか、噂のレベルでもそれが大きければ、影響が輪を呼んで為替が大きく動いてしまうということがあるのだ。

為替というのは、常に自分を動かしてくれる材料を探している。為替というのは不貞な輩であるとでも考えればよい。しかしそれは最も影響力が大きい。ちょっとした事件や発言や噂にも飛びつき、そんな根拠も薄い些細なことが火種になって引っくり返ってしまうということが多々ある。ここ数週間の円相場とは、材料をこの新しい民主党大臣の発言を軸にして大きく動くという展開になった。財務大臣の藤井さんの発言である。つまり藤井さんは単にぼけているだけで意図はないのだが、市場のほうが藤井さんの発言をネタにしているという展開なのだ。そしてこれをネタにいじくっているのは日本ではない、外国の、主にニューヨークの市場である。

別に藤井さんの発言に、何か明確な根拠があるというわけでもなく、また市場のほうでもそんな確実な証拠など求めていない。だた市場のほうが要因として、自分を大きく動かし揺らしてくれるネタを常に探しているのだ。特に根拠もなく不用意に言われたこの藤井発言は、ドル円相場を大きくぶらせるのに格好のカモとなって機能した。こういうのが為替の現実である。貨幣と市場の流れというのは、噂の部類に最も過敏に反応しやすいのだ。

それに対して金融大臣になった亀井さんの発言というのは、中小と零細の企業を救済するために、借金の返済にモラトリアムをもうけ猶予しようというものだった。しかし同じ政権内部で、これだけ効果において矛盾したちぐはぐな宣言が為されるというのは、経済的現実の面から見ればちょっと許されない。破廉恥な矛盾である。(亀井さんは国民新党で連立内閣だとしても。)

日本の中小零細企業を助ける最も簡単な方針というのは、主力分野関連ならば、まず円高を避けて円安に維持するということである。これは単純な事実である。ドル円が80円台に割り込めば一気に日本の小さな製造メーカーなど、簡単に窮地に追い込まれてしまう。

大手の自動車メーカーは、今年の年末にかけても昨年同様首切りに派遣切りを敢行しなければ経営がもたなくなる。そういう可能性も開いてしまうだろう。日本の製造業を全体として、中小零細から大手まで救いたかったら、なんとかして今来ていた市場における「円高の欲望」から、回避するよう持って行くしかなかったはずだ。

亀井さんのポリシーと藤井さんの認識はこのように全く繋がっていない。あるいはもう民主党的には、国内に日本の伝統的な製造業などいらないと考えているのだろうか?製造分野はみな海外流出で構わない。日本はこれから輸入で儲けられる新しい中小企業が立ち上がってくれるとか?いやちょっとそんなことはないと思うのだが。