日本の労働環境の未来とは?

今夜のフジ系テレビで放送の情報番組「サキヨミ」で紹介された、オランダにおけるワーキングシェア事情の特集は重要なものだったと思う。

いま日本で直面している労働雇用の問題として、景気が不安定な側面に入ったことから労働者の解雇問題、雇用環境のリストラクチャリングの問題について、オランダが到達している社会環境の段階とは大変啓発的なものを持っている。日本の雇用環境の現状が必然的に迎えるべき次の進化的で肯定的な段階への具体的なビジョンを、先の方向として示してくれるものだった。

基本的に、以前の段階よりも産業の生産性が落ちて、職場の生産環境を縮小することによって企業を守らなければならないことが不可避になるとき、派遣を皮切りにした労働者の解雇というよりも、そこで働く労務者一人一人の労働時間を短縮することによって仕事の再分配を全体的に計る「ワークシェアリング」のほうが、企業の労働形態を社会環境の基準から見たとき、はるかに合理的に物事を進めることができる。

不況下でのワークシェアリングの導入によって、まず労務者一人当りの労働時間は短くなる。その分休暇も増えるのだが受け取る給与も応じて減ることになる。一人の給与は減るがその替わりに全体的な雇用は一定の割合なら守ることができる。社会環境として、社会の中に失業者の数を増やすか、一人一人の給与を縮小することによってなるべく全体的な雇用環境は守るかということである。日本では、現状の不景気を前にしても、まだこのワークシェアリングという手法の導入に関しては、躊躇っているところがある。

しかし、「サキヨミ」の特集で教えるところでは、オランダは既に80年代の段階で、今の日本と同じような大量解雇の状態を労働環境の変調として迎えていたものであり、そのときオランダが直面した問題は、今の日本が直面してる問題と殆ど同じ類の問題であった模様である。まず、オランダの雇用においても、資本の必然性による雇用環境の形として、正規の労働者と派遣的な役割の労働者に分かれている。そして正規と派遣では同一の労働であっても賃金の格差、即ち時給の格差があったわけだ。しかし現在のオランダの雇用環境では、この時給格差はほぼなくなっている傾向にある。

労働者は、雇用調整によって自分の労働時間が短縮されれば、給与は減るがその分余暇の割合も増える。余暇が増えることがあるということが前提とされていなければ、日本人の現状のように、増えてしまった暇な時間に戸惑う人も多いのだろう。しかし、オランダでは雇用環境の意味としてそのような調整があることは前提とされているので、オランダ人は自分が余暇に何をすべきかという心構えについて、既に充実しており、個人が自分を見つめて磨く、楽しみの為の余暇という考え方は広く共有されている。

ゆえに、景気の調整期に、ワークシェアリングが働くことは、当然のこととして既にオランダ人には受け入れられている。自分がワークシェアリングに同意することは、同時に社会福祉的な意味も兼ねていることは了解されており、暇になった時間をどのように良い方向で充実させるべきかという考え方も浸透している。このような社会福祉的な成熟の考え方に慣れたヨーロッパ人の生活に比べて、日本人というのは明らかに働きすぎである。

無暗に働きすぎているが故に、日本人個人の収入は悪戯に多いが、しかしその金の使い方については決してよくできているものとはいえない。本来安く押さえられるようなはずの、余暇における宿泊費用なども他国と比べ妙に高いが故に、せっかく取った高賃金も、やはり必要以上に高価な消費のほうに回されてしまい、結果的な生活の充実度とは決して高いとはいえない。余暇に投じる消費の為の費用というのが、日本では悪戯に高いのだ。高賃金をたとえ取っていようと、生活内容については必ずしも豊かであるとはいえないような状態が日本にはある。それがずっと長く続いている。無意味に高い品物に我々はせっかくの消費を回しすぎている。*1

個人の労働時間を減らすことによって、公的環境から福祉的環境の充実を図ることとは、生活自体に充実を実現させる為には必要なことである。日本も多かれ少なかれ、オランダ型の生活スタイルを導入していかざるえないのだ。収入が減っても生活の豊かさを維持するためには、セーフティネットの拡大が必要である。具体的にいえばそれは、失業保険や年金を巡る、正規非正規の垣根をなくしていくことである。

日本人は、暇な時間に直面したとき、自分が何をすればよいのか逆に分からなくなる。だからそういう自分を忘れるためにこそ、ただ無暗に我武者羅に、盲目的になって更に働き続けなければならなくなってしまう。こういった日本人的な近視眼性が、遂に変更を迫られている。今までの近代的日本人像の性質にある種進化が迫られているのだ。現状の不景気はこのような意味で、逆に、数値的な金銭の量では貧しくなっても、人生の実質において豊かさとは何かを問われている試練として、日本人にとっては重要なチャレンジであり、かつ基本的な態度の変更の時期にあたっている。

*1:番組では、日本人では余暇を取る日が土日に集中しているので、週の中でこの二日間しかホテルが稼動して稼げない故に、一泊分の宿泊費が高いのだと説明されていた。これがヨーロッパだと、週のすべての日に渡って休暇を取って来る客が有るので、ホテル施設の稼働日数とは、週の中でフルに見積もることができる。ゆえに一泊の宿泊費用も同じコストの施設につき安くすることができるのだと。