朝青龍の病気を治すという奇妙な治療法の話

朝青龍の話をテレビで見ていたら、モンゴルの精神治療第一人者という爺さんがマスコミの会見に答えてる映像が出てきた。モンゴルから、何処かの庭のような場所にテーブルを置き会見場所を作り、濃い緑をバックにして、爽やかな陽の光を浴びながらプレスの質疑に答えている。といっても日本のマスコミしかいないのだろうか?CNNなんかも入っているのかもしれないが。それで何かベレー帽でも被らせたら漫画家みたいなそのモンゴル精神治療第一人者のオヤジさん、どこかで見たことあるような顔だが、そういえば横山弁護士、オウムの時に出てきたあの弁護士の爺さんにも似た感じの人だとも思ったが、彼の診療によれば朝青龍の具合はよくなったが、施した治療法とは「全体説明療法」というものだという話である。

それで番組の取材だが、この全体説明療法なる方法について、それが一体どんなものなのかを、日本の精神科に聞いて回ったわけである。よくテレビに出てる町沢なんとかという医師とかがそれでインタビューに答えてるわけだが、他にも番組は日本の精神科医に尋ねて回ったところ、そんな治療法は、日本では知らない、聞いたことがないという話だった。朝青龍が治ったという全体説明療法の正体とは何なのかについて、日本の聞かれた専門家たちは、どうやらその言葉の意味を掴めなかったみたいである。ただ、日本では、こういう患者に働きかけるような治療法はやりません、みたいな回答で、番組でもその治療法、言葉の意味について、それ以上突っ込めなかった。しかし、モンゴルの医療といえば、必ず、ロシアや中国との関係性の繋がりから入ってきた方法で行われているのだろうということは簡単に想像できるので、そう考えると、この全体説明療法なる言葉の意味は明らかに推測できるのではないだろうか。要するに、それは社会主義的な意味での精神療法のことなのだろう。

つまり、精神疾患の起きている患者に対して、共同体に外れた状態からうまく内側に戻れるようなストーリーを、医師が提供してやる。このストーリーについて、患者が自分に言い聞かせるようにして、同時にそれを周囲の共同体が、見守るようにして受け入れる、自分に説明すると同時に全体に対しても説明し直すという形で、共同体への再同化を行うという作業のことを指すのだろうと思う。いかにも、それは「社会主義的」な発想なのだが、要するに、患者が、自分はこんなに悪いことをしましたという改心のストーリーを与えられ再生することによって、マインドコントロールを施し、それを周囲の共同体が承認することによって、共同体的な再回収を果たすというプロセスのことをいって、全体説明療法というのだろうと思うのだ。しかし、たとえこれによって、患者がうまく自分に言い聞かせ=マインドコントロールをして共同体に再回収されたとして、それで直ったということにするというのは、あまりにも洗脳的な意味合いでの共同体療法ということになるのだろう。

もちろんこれは治るというよりも、医療を名目にした空間で囲って、共同体に患者が妥協して、それを共同体が承認するというだけの、個体の側から、自分の認識の生産という見地からすれば、詐欺みたいな話だというのはわかる。しかし精神療法について、別に社会主義的影響ではなくとも、認識や「真実」を生産することなどはじめから意味ないのだとすれば、これでも立派な医療的方法ということもできるのだろう。これの本質は、医療というよりも、明らかにマインドコントロールである。日本で、これが精神療法としては認定し難いにしても、同様な方法論は他に幾らでも行われてるわけであって。一種の自己啓発セミナー的な方法論で、それが医療という名目で堂々と通っているにすぎない。会社社会的な、外れた分子を再回収する方法だけでなく、まさに左翼とかで自己批判の要求とか、そういう儀式的な裁定の遣り方があるけれども、それの延長上に医療化されると、「全体説明」とかいう話になるのだろう。与えられた物語について、自分に対して、そして全体に対して説明し直すことによって、再回収をうむというだけの話である。これだとさすがに、日本の精神医療界では欺瞞というのが明らかにバレテしまうものではあるはずだ。しかし、かつての社会主義の影響がまだ残る地域では、やはりこの方法が「医療」ということでまだあるのだろう。