Wish You Were Here -2

この曲が収録されたのは、ピンクフロイドのアルバム『Wish You Were Here』であって1975年のことである。歌ってるのはギターのデヴィド・ギルモアの声に近いが、ベースのロジャー・ウォーターズの声も途中から被っている気配は感じられる。ギルモアとロジャーでピンクフロイドのコンセプトは争われてきた。それは最初にバンドの中心を担っていたシド・バレットが脱退して以来である。シドが脱退しドラッグの過多で死んで以来、ピンクフロイドは別のものとなった。シド・バレットのエッセンスを継承したものとは、むしろ当時の、初期のデヴィッド・ボウイの様なアーティストだった。ピンクフロイドは、エレクトロニクスの力を借りて、少ない楽器からオーケストラ的編成の厚みを音に出す実験を重ねた。ロックとしてその音のスタイルは壮大なスケールにも近づいたが、一方内面世界も微分していく試みも音の実験には取り入れた。アルバムには舞台芸術的な演出が組み込まれ、ロックによる哲学的なストーリーを生み、瞑想的な体験の世界を作り出すことに成功した。最後にロジャーのコンセプトが全面的に活用されたのは大作アルバムとなった『THE WALL』だったが、次の『FINAL CUT』ではWALLで表現されたものを補完するアルバムに止まり、ロジャーはフロイドを脱退した。以後はギルモア型のフロイドとなり、アルバムを幾つかとツアーをこなしているが、もうこの時点からはピンクフロイドとは本質的に過去のバンドであり、彼らが示すものとは過去の哲学的葛藤の指標を反復するものがもう主だった。ロジャーは以後ソロで活動しアルバムを何枚か作り、ツアーをこなした。ソロのロジャーと度々共演したものにエリック・クラプトンがいる。もうフロイド時代の崇高さの味は出すことは出来ないとしても、小振りになったサイコセラピー的なコンセプトとして、ロジャー・ウォーターズは自分の世界を固め活動していた。ロジャーとクラプトンが、Wish You Were Hereをアコースティックで静かに奏でている。