ラムネの瓶

深夜に近所の駅前の居酒屋和民にいった。酒は飲まなかったが代わりにラムネを頼んだ。氷を入れたグラスを添えて、ラムネの瓶が運ばれてきた。ラムネを飲むのなんて久方ぶりだ。瓶の開け方に最初戸惑った。これどうやって開けるんだっけ?それは貼ってあるシールに書いてある。ラムネの瓶、懐かしい瓶ではあるが、ガラスの瓶で、何か妙な形に加工されている。今にしてみれば不必要に重たい瓶の作りである。上の口に、下の部分とは別の小さな部屋が一つこさえられていて、蓋に当たる部分がビー玉状のガラス玉で、塞がれている。だからそのビー玉の蓋を、上から強い力で押してやれば、飲み口が開かれるようになっている。ビー玉は、瓶の内部で上の部屋の部分に押し込まれ、そこで転がっている。ラムネの中味というのは、要するに炭酸飲料で、それを強力に甘くしただけのものである。何か特別栄養があるとも思えない。炭酸飲料といえば、欧米文化の影響を経由して、日本でも飲まれるようになったのだろうが、ラムネとは、日本でその最初期の段階にあたる飲料であったはずだ。というわけで、ラムネの歴史を調べてみたら、日本で最初にラムネが飲まれたのは、浦賀にペリーが来航したときであるそうだ。黒船の上で、向うの人々よりラムネが振舞われたらしい。最初に飲んだのは、交渉に来た幕府の役人である。蓋を開けるポンという音に、幕府の役人が刀の柄に手をかけたという。だから最初に日本で売られたのは慶長年間で、レモン水という名前で売られた。そこからレモネードが訛って、ラムネと呼ばれるようになったのだそうだ。最初は瓶にコルク栓をしたものが売られていたらしい。思っていたよりラムネの歴史とは古かった。この特殊な瓶の形状とは、要するに、まだガラス瓶入りの飲料を商品化するにも、蓋の形態として、うまい形のものが発明されていなかった時期に、ガラスを加工するついでに、蓋自体もそのガラスの部分と一緒に組み込めてしまうということで、この形状が出回ったのだろう。だから商品化される飲料の歴史において、瓶入りから、今では缶入り、ペットボトルと進化してきたが、その古い時期における合理的な形状だったということだ。ラムネとは、この瓶で飲むからおいしいのだろうと思う。また冷えていなかったら同じラムネでも全然うまくないだろう。ラムネをうまいと思う感じ方というのは、このイメージの問題であるはずだ。冷たくて、それがガラスのビー玉のコロコロ転がるイメージにとても合致している。祭りの縁日で、氷水に漬けられて並んでいるラムネの姿を思い出す。ラムネがうまいとは、このイメージの喚起力、想像的な味付けのことに他ならない。