松田優作の『探偵物語』と『BAD CITY』

70年代の総括とは、テレビドラマの視点から、イメージと文学性の位相において、時代の重さを内部から切断する局面として、思いがけない方角から起きてくる。それは松田優作探偵物語である。おそらくこれは松田優作ものの中では最高傑作にあたっている。文学性、批評性という観点からいっても、時代的なものとして突出している。「探偵物語」によって世界像が明らかにそれまでと違う角度から照らされている。醒めた視線で世界を見る眼だが、探偵物語の構造として、そこには倫理的な次元と介入的な次元がないわけではない。しかしその倫理性が、それまでの刑事ドラマ、探偵ドラマの観点とはもう異なっているのだ。倫理が違う位相にシフトしていると云う事は、自由も違う位相に新たに築かれている。ロウアングルから、あるいは高所からカメラの視線が場所を捉え、醒めた視線を研ぎ澄ますことは、世界を客観的に浮かび上がらせる方法となっている。これをフッサール的な還元と捉えれば、現象学的還元とは、松田優作の演じた探偵、「工藤ちゃん」のスタイルにある。それはエポケー=判断停止し、それぞれの対象をカッコに括って、流れに浮かばせることであるが、これを日常的な生活世界との関係性として与えれば、その度ごとのある脱力によって与えられた、探偵工藤のスタイル、対人関係、友人の持ち方そのものとなる。探偵物語のテーマを担当したのは、70年代のスタジオミュージシャンを集めて作ったバンド、SHOUGUNである。SHOUGUNの演じた「BAD CITY」は、70年代から80年代を繋いだ音楽性として、情緒的にも、文学的にも、既に伝説的なものであったと認識されている。これが探偵物語で毎回反復されたオープニングのイメージであった。

Bad City