『LITTLE WING』伝説

ロックの曲で、スタンダード化して幾つものアーティストにカバーされたような、秀逸なる何曲かとは、歴史的にあるわけだが、その中でもジミヘンの「Little Wing」は、他による語り継がれ方、改造のされ方が、それぞれにとても面白い特徴的な一曲となった。何故この曲が、こんなに幾つもの角度から、それぞれに違う、独特の味を引き出せたのか、結構不思議な深みのある、それは構成の完璧な曲であったのだろう。僅か数分の一曲について、何度も反復させて味わいたくなる、音の快楽の深みとは、どういうことなのかと思う。そのメカニズムの正体とは何なのかと。「Little Wing」や「Knocking on the heavens door」とは、ロックにとってそのような反復される構造にあたっているわけだ。よく考えれば、これら原曲の長さとは、2分から3分といった程のものである。リトル・ウィングならば、68年にジミヘンのオリジナルがあって、次に70年にクラプトンとデュアン・オールマンのデレク&ドミノスで思いっ切り原曲を改造したアレンジを作って人々を驚かせて、それでロックの決定的なスタンダードとして確立されたということだろう。色んなアーティストが、それぞれのコピーを試みたこの曲であるが、その中でも渋いコピーは、スティヴィー・レイ・ヴォーン版のリトルウィングであることは、知る人ぞ知るという所である。テキサスの歴史を意識するこの白人ギタリストは、ブルースとロックについて、最初から古典化させた形で、律儀な丁寧さでもって、ルールを曲げずに繰り返し続けた。原曲の形を、忠実に、ジミヘンに対して最も敬意をもって、そのまま残そうとさせながらも、どうしても彼の本能か、あるいは白人の抱える運命的に、ずれてしまう微妙な差異が、同じリトルウィングとしても、それをよく知る者の耳には堪らなく厳密で、わかるものにはわかるという、プライベートに差異化された快楽として耳に響いているのだろう。

Stevie Ray Vaughan Little Wing