ラジオ体操する監視カメラ

確かに僕は、それを見たんだ。・・・それは四月の終り、長い雨が降った夜の後の明け方、近所の駅前でだ。なぜ僕がそんなものと遭遇することになったのかだって?僕は駅を跨いで、向こう側にあるコンビニまで、朝飯とタバコを買いに行く途中だった。

僕にとって、最寄の私鉄の駅の構造を、説明しておこう。駅舎は高架を利用して少し高いところに作られている。川がすぐ隣に流れているから、この辺りはもともと低地だったのだろう。コンクリートで固められた駅舎は、真ん中に円くドーム状の通路が設けられていて、人々はそこを通り抜け、行き来できる。それでコンクリートと土手で固められた二階部分がホームになっている。夜に駅に近づいたとき、上に立つホームから、照らす蛍光灯の強くて白い光が、この周辺を明るくして目印にもなっている。人気のない深夜など、駅の周りを通り過ぎるときに、上に立つホームからの光が、力強く支えてくれてるのがわかる。

長い雨が降っていたので、夜の間に何かのストレスが溜まっていたのかもしれない。雨が去った後の空は、まだ生温い風が吹いているものの、それなりに爽快感を与えてくれた。人気はまだない。駅前の朝方だった。駅の前には、大きなスーパーが入ってる建物がある。そして通りを一本はさんで、そこからしばらくペアモールという商店の連なりが続いている。僕が駅に出るとき、いつも大体このペアモールを潜ってくるのだ。商店街の入り口には、小さなアーチがかかっている。

駅舎の高いホームから、タオルのように長く、白い布のようなものが、ひらひらと舞い上がるのが見えた。駅舎の手前には交番の小さな出張所がある。交番はいつもの夜のように、ただそこにあって光ってるだけで、何があっても知らぬ顔というばかりの感じだ。

一反もめん?そんな妖怪が昔いなかったっけ。それは木綿の妖怪で、空をひらひら飛んでるやつ。魔法の絨毯みたいに、上には人も乗れるのだ。でもただの絨毯ではなくって、よく見ると目とか手がついてる。商店街のアーケードを抜けたところだ。アーチの上に目玉がついてるのを見つけた。

監視カメラ?それは目玉が一個だけ刳り抜かれたように、アーチの上に座っている。目玉がそれ自身でくるくる回転もしている。あの目玉おやじじゃないかとも思った。でも目玉おやじがなんでこんな場所にいるのだろう。

風が吹いた。一瞬のことだが、大きな突風だった。春の天気は信用できない。目玉おやじはギョロッとしている。白い玉に、青い瞳腔が濃厚に渦巻いている。それで目玉だけ妙に人一倍に大きくて、その下には小さく手と足と胴がついてる。シラスのように細々とした胴体がついてる。風の後には、音楽が聞こえてきた。それは微かな響きだったかもしれない。でも僕は決して聞き逃さなかったよ。ラジオ体操第一のメロディだ。早朝だった。他に誰かがラジオでもかけているのだろうか?