HOT LEGS - kuriggen’s diary

世良＆ツイストの起源を見ることは勿論難しい話ではない。それはわかりやすい話であるには違いない。ロックンロールの形式が成立するのがアメリカで50年代のことである。ロックンロール（rockn'roll）の形式を定義としてあえて言ってみれば、先行したブルースの形式に対して、そこから暗い要素を取り去り、明るいアップテンポのビートにアレンジし直したものと、まずいえるだろうか。ブルース的鬱のリズムの循環性、それは時に心に深く染み入り、他とは換えることのできない独特の居心地の良さを提供するものであるが、くどくなれば悪循環を生み、またそれは必ずしも、誰にでも、またいかなる時と場合にでも理解可能で快楽を与えるという種類の音楽とはいいがたい。広く人々の耳に入って快楽と感じられる音とは、明るい音であり、テンポの良い、速いリズムの音楽である。ブルースからロックンロールが胚胎されるときに、まずそれは時代的な商業生産の流れにも要請された、幅広く簡単に流通しうる、シンプルでわかりやすい音楽の形式として、まさに求められた新しい音楽形式であった。かくしてロックンロールの発明とは革命的なものとなった。その単純な快楽の増殖はあっという間に広まり、アメリカ全土を覆い尽くし、白人も黒人も人種を問わず感染し、イギリスに飛び火し、イギリスでも独自にアレンジが施され発展し、もちろんヨーロッパ、ラテンアメリカ、日本へと、急速に立ち上がりつつあったメディアの伝播のスピードに乗り、伝染病のように拡散された。ロックンロールの発展の中から、60年代にはロックというジャンルが特に独自のものとして新しく胚胎してくることになるのだが、ロックのベースとしては、常にロックンロールが通底しているということはあるわけで、ロックンロールを更に形式化することによって洗練されたロック形式において、その中でもロックンロールならではのグルーブ感に拘る種類とは、ブギロック、パブロックという形式で独自の形式を究めていく。

フリー、バッド・カンパニー、ジョニー・ウィンター、といった骨太でシンプルなブギに拘るバンドの流れがあり、それらは孤高で無頼、シンプルなスタイルの美学を貫くものとして、彼らの世界を展開させていった。グランド・ファンク・レイルロード、10 years after、とワイルドでパワフルなロックの形式は熱狂的なファンの層も伴い、70年代の時代の流れに乗って、一気に展開していった。最初に形式的なロックの実験的な試行錯誤を繰り返していたジェフ・ベック・グループからは、ロッド・スチュワートが独立し、間にロン・ウッドとのバンド、フェイセスの過程を経るものの、彼のソロのスタイルとして、これらブギロックの形式を究めていくことになる。ロッド・スチュワートといえば、ボーカルのステージングにおけるアクションが特徴的で強烈なインパクトを与えるものとなったが、この見た目に一番わかりやすといえる、ロッド・スチュワートの派手なアクションとボーカルのスタイルは、日本の音楽シーンもすぐさま感染を受けることになる。世良のステージングはロッド・スチュワート型のスタイルが最も直裁に入っているものではあるが、70年代後半のロックの展開にとって、日本でも横のロッド・スチュワートと殆ど同時的な展開でもって、日本型のブギロックの世界を展開させたものといえる。世良は、本場ブギロックのエッセンスとそれに対応する日本文化の古典的な心情を結び付けたものであるが、ブギロックの持つワイルドなスタイルが、日本の浪速的精神性、曽根崎心中的な心情形式と見事に合致していることを本能的に見抜いている。この合成によって世良のスタイルとは成功している。

さてそれでは、これら限りなく自家撞着し拘泥していくニオイも決して否めないワイルドなブギロックのスタイルであるが、その中でも元祖として最もスタイルを樹立するのに有名なものとなったのは、やはりスコットランド出身のロッド・スチュワートである。ブルースロックのヘゲモニーが50年代の黒人のもの、特にＪＢ−ジェイムス・ブラウン的なものから、70年代には白人のものに移り、ＪＢに拮抗するだけのシンボリックなスタイルを打ち立てたのは、やはりこの人を抜きにありえない。77年にロッド・スチュワートが示したロックのイメージとは、即座に日本では78年にもうツイストによって「宿無し」や「銃爪」で完全コピーされている。77年の『HOT LEGS』は70年代後半の、ロックの自立性が確立されたところに出現した金字塔である。この曲、このスタイルから流出し、世界中のロックにとって、最もロック的なる自同的で同語反復的なイメージが繁殖し、分裂し、最もわかりやすいイメージのロックなるものとして社会に定着するようになることだろう。77年のオリジナル版『HOT LEGS』を演じているのは、ドラムスにカーマイン・アピス、ベースにテツ山内という最強メンバーのロッド・スチュワート・バンドである。