アメリカ産のパンクなんだが

80年代のアメリカ産のパンクバンド。アメリカではパンクロックが浸透するのに=それを承認するのに、結構時間がかかった。パンクロック的なスタイルは、平均的アメリカ人のあまりにも拒否しがちな性質を備えている。しかし最初は抵抗あったとしても、じきにアメリカでもそれは承認されるに至るし、今では普通だろう。アメリカでパンクロックが流行るとき、それはやっぱりアメリカ的なセンスによく出来上がったものである。The Replacements というパンクロックのバンドが80年代にアメリカではわりと流通していたのだが、このバンドは日本には殆ど入ってこなかったし、日本では殆ど知られていない。アメリカ人でもアメリカ人的なパンクがありうるのだという事実を日本人は受け入れがたかったのだろう。そんなものがあるなんて、日本人は別に知りたくもなかったというわけだ。ラモーンズというニューヨーク産のCBGB出身のバンドが、アメリカのパンクとしては最初70年代から有名になったのかもしれないが、しかし聞けばよくわかるが、ラモーンズの場合、センスにしても音階にしても、パンクというよりもあれはロックンロールというものであるという方が近いだろう。ロックンロールをちょっと速くして現代風にしたという感じである。こういうのは、やはりアメリカのトラディショナルなライン上にあるとはいえ、パンク的なセンス、反抗的政治のセンスというのとは、やはりちょっと違うのだ。

REPLACEMENTSの場合、明瞭なメロディライン、わかりやすい音ということで、いかにもアメリカ産のパンクという感じがする。要するに、スプリングスティーンをパンクにアレンジしたような感じだと思えばよい。これがアメリカにおけるパンクロックの条件だったのだ。しかしこのメロディアスなパンクアレンジを聞いてもらえばわかると思うが、本来こういう楽曲は日本人好みのものであり日本人には聞きやすいし、馴染みやすいものであるはずだ。でも何故日本では全く流行らなかったのか?プロモーションが足りなかったのかもしれないが、まだ少し前まで日本人は、アメリカ人も実はパンクをやるものだなんて認めがたかったのではないか?リプレイスメンツというのは、ポール・ウェスターバーグという男が、ソングライティングとボーカルを主に担い活動したバンドだ。ポール・ウェスターバーグはソロでも、バンド後に活動している。アメリカではそれなりに有名だが、日本では相当にマニアックな名前だろう。先にいったように、細身の文学青年がパンクをブルース・スプリングスティーン調=アメリカ人的な正当性において、やってますという感じのソングライターだ。

The Replacements - Bastards of Young


アメリカのパンクバンドとしてわかりやすいのは、90年代にブレイクしたグリーンデイみたいなイメージだろう。アメリカにもパンクがあるというとき、大体ああいうイメージで捉えるのが正しい。グリーンデイの支持の基盤というのは、彼ら自身の生い立ちでもあるが、アメリカにおける新しい移民層の支持であり、貧乏で反抗的な階層の存在である。グリーンデイの場合、彼らの背の低さというのが、ガタイの大きなアメリカ人の群れの中で、パンク的な反抗政治のイメージを形作っているのだ。あの妙に貧しそうな感じ、しかし元気がよい感じ、ヨーロッパ系移民であるはずなのに妙にアメリカ本土に馴染めていないような感じが、グリーンデイの支持基盤を形成している。しかしグリーンデイ程、新移民的ではない、アメリカ人のオーソドキシーに根ざしてるリプレイスメンツであるのだが、何故だか最近80年代のものだったこのバンドに脚光があたりつつつある。というのはリプレイスメンツでベースを努めていたトミー・スティンソンという男の存在によるのだ。

トミー・スティンソンは現在、アクセル以外のメンバーが一掃し生まれ変わった新生ガンズアンドローゼズのベースとして定着している。ガンズはこの春に来日し幕張でライブをやるのだが、新生ガンズが日本で紹介されれば、パンク・ベーシストの渋く光った存在、トミー・スティンソンの存在にもこれから脚光が浴びるはずだろう。パンクロッカー、トミー・スティンソンという男の奇妙な存在感については、この新生ガンズが演じているビデオを見てもらえば理解できると思う。これは最近、ブラジルで年頭企画のROCK IN RIOに出たときのガンズなのだが、ここでスコットランド風のスカートを履いてベースを掻き鳴らしてる男がトミーである。今まで日本では全く人気がでなかったが、彼は十分に立派な気風を備えていると思う。ちなみにこのビデオにはギターでバケットヘッドが登場している。ソロを弾いてるのはナイン・インチ・ネイルズのギタリスト、ロビン・フィンクである。