ポップトーン−それは現代における神曲である

ニーチェ的な哄笑の響きとともにジョン・ライドンは宣言した。パブリックイメージ、それは制限済みであるのだと。ジョン・ライドン音楽史的に施した仕掛けとは何だったのだろうか。それはまずセックスピストルズによるパンクロックの創生から始まった。パンクロックを成立させる為の条件とは、それまでの音楽形式の徹底的な単純化、省略化による凝縮をしたことだった。既に溢れ返っていた冗長で肥大した音楽形式に省略と凝縮を与えることによって、それを判り易さとして再提示し直す事。そこではロックの意味と価値とは政治的な機能として合理化される。この簡略化したスタイルは何処へでも何とでも交換可能になり、社会の至る場所に簡単に流出する。ロックはもっとも単純に簡素化されたコミュニケーションの一形式となる。それは生活事象、人間的営みのあらゆる事象と交換可能になり、それまで無自覚的に埋没していた日常性の事柄が突如として政治的なマニフェストとして表出可能になるのだ。これがパンクロックを大きなムーブメントとして流出させた条件だったのだ。

音楽はもう既に終わっている。ロックはもう既に死んでいる。この認識的な条件から、まずジョン・ライドンによってパンクロックの基本形式は立ち上げられている。省略され尽くして簡素化された音楽形式に息を吹き込むものとはディオニュソス的なグルーブである。パンクを病みつきにさせる反復的な陶酔のリズムとは、この独特でアナーキーなグルーブにすべての条件を還元したことにあるのだ。成功したパンクバンドにとってすべて共通している条件とは、それがグルーブの発明に成功しているということである。このようにしてパンクの基本形式とは、70年代の後半にセックスピストルズとクラッシュによって完成された。ピストルズとクラッシュに共通しているのは、何処までも単純化されて判り易くされた音楽素のモメントをそれぞれ彼ら独自のアップビートで突き破っていくグルーブに統合したということにある。簡易化された世界的事象のすべてはこのように、やはりそれも単純化された直線的なアップビートのグルーブに統合化されることによって、反復しうるアディクションとしての陶酔性になり、それはパンクロックというジャンルとして完成された。ダムドやイギー・ポップにおいても、また最近ではランシッドのような新しいバンドにおいても、そこにあるのは抽象的に反復される単純化への意志としてのグルーブの存在であるのだ。

ピストルズの活動とは一年余りで終わってしまう。しかしその後のジョンライドンの方法とは別に変わっていない。歴史的な音楽形式の省略化と単純統合とは、ピストルズ時代よりも更に抽象的な形式によって為されることになった。それがPublic Image Ltd. (=PiL)の音楽の水準である。PiLとはメタの音楽である。それはロックのメタであり、ポップのメタであり、そもそも音楽史自体のメタとして成立する。徹底的に抽象化されたメタ形式を単純な反復のリズムでもって統合を与えることによって、それらを永遠回帰させうる。PiLを聴く者の耳にとってそこで体験されるものとは、音楽における永遠回帰である。PiLの作り出した音楽的なビジョンとしての永遠回帰のイメージとは見事な境位にまで到達している。