セキュリティの起源Ⅱ

ボウリング・フォー・コロンバイン」によってこのようにアメリカの歴史が語られている。

ピューリタンはイギリスで迫害に脅えていた。彼らはそれで船に乗ってアメリカ大陸に大量に移住してきたのだ。だが新世界に到着した彼らは「野蛮人」に遭遇しまた脅えるはめになった。そこでそれを抹殺した。民族を一つ消して安心したかと思うと、これがちがう。今度は彼らはお互いを恐れ始めた。

それで魔女狩りをした。1775年にはイギリス人を殺して独立を収めた。大成功。だけどもまだ不安だった。そこで憲法を改正して誰でも銃を持てるようにした。そこから生まれた天才的アイデア奴隷制である。当時の白人は働くのが大嫌い。アフリカへ行って黒人を誘拐してタダで重労働をさせた。この場合のタダというのは本当にゼロだ。この方法で米国は世界一リッチな国になった。自由も金も手に入れて、白人は安心したと思うか?全然。前より不安になった。

200年間もの奴隷制で黒人の数が増えすぎたんだ。奴隷は反乱を起こし旦那様の白人の首をちょん切った。そのとき現れたのがコルト氏だ。彼は1836年世界初のリボルバー(弾を込めなくても連続して撃てる拳銃)を発明した。白人は大喜び。でも南北戦争北軍が勝ち奴隷は解放。黒人が復讐しに来ると白人は脅えた。白人は疑い深い。それで作った組織がKKK団だった。それが1871年に非合法化されたのと同じ年、全米ライフル協会NRAを設立した。

政治家は初の銃の規正法を作り、黒人の銃所持を禁止した。アメリカにとって大当たりの年だ。KKKとNRA。その二つは偶然だが、一つは銃所持を促進し、一つは黒人をリンチ殺害。それは1955年まで続き、ある黒人女性が法を破ってバスで席をどかずに白人はビックリ。それをきっかけに黒人は公民権を要求。白人は恐怖に震え上がりパニックを起こして叫んだ。逃げろ逃げろ。そして仲間の大勢いいる安全な郊外へ逃げ込むんだ。そして2億5千万町の銃を買い、銃と警報機を付け周辺を門で閉ざした。こうしてようやく安心と快適を入手。・・・

恐怖のイメージについて大衆的にメディアを通じて固定的に植え付けることが、アメリカにおいては商品として、情報操作的な体を為しながら流通している事態というのに、マイケル・ムーアは指摘を加えている。恐怖を煽ることが同時に、銃を売り、そしてセキュリティ系の資本主義的な商売を繁盛させている効果がある。恐怖のイメージを絶え間なく煽り続ける事は同時に絶え間なく、アメリカ人にとっての敵の姿というのを、それが現実のものであろうと仮想のものであろうと妄想のものであろうと、設定しては宣伝し続けることと同じである。最初はそのような「敵」とはアメリカ大陸の原住民だったのだろう(インディアン)。

白人共同体の集団心理学においては、外部に敵のイメージを設定できなくなると、自然に白人同士の間で、そのような差異としての仮想敵をでっち上げ始める現象が起きたのだ。それがいわば「魔女狩り」の現象である。アメリカ人の内部ではそのような敵性をイギリスに焦点を絞ることによって、独立宣言を勝ち得た。おそらくそのようにして敵の対象が明確化されそれの排除と撲滅に励む間というのは、逆説的なことにも、アメリカ人を自称する白人たちの内部には仲間意識の緊張と幻想の高揚というのが頂点に達することができたのだろう。

それは敵としての悪であり外部の対象が明確なときである。アメリカがイギリスから独立を達成した後には、それではどのようになったか。アメリカ人は奴隷制を発明したのだ。アフリカから奴隷船に乗せて大量に黒人たちを集めてきた。これはアメリカの白人共同体にとって、格好の搾取的な外部の対象となりえたわけだ。しばらくのあいだ、そのような黒人奴隷制とともに、プランテーションを中心としてアメリカの古典的な繁栄の時代が続く。

しかし連れて来た黒人というのも、何年もたてば自然に人口が増加し自立性も強くなってくる。やがて黒人の反乱というのが現象としてアメリカの各地で起こるようになってくる。白人的共同体の結束とはそれでもってますます銃的なシンボリズムを媒介にして強まる。南北戦争における北軍側の勝利や奴隷の解放宣言など、アメリカの白人サークル、つまりキリスト教的な統治の立場においても、黒人への差別に疑いがもたれ、一定のヒューマニティが市民的秩序として一般化してくると、今度は黒人の迫害方法というのは、裏組織化して反社会的集団性として持続していくことになる。すなわちそれが『KKK団』の登場で暗躍である。

それはアメリカの裏組織として機能し黒魔術的なものとして伝播される。やがてそのようなKKK的な反社会的な現象もアメリカでは法律的に禁止されるようになる。資本主義的な発展に基づく都市の建設や情報網の発達が増していく中で、黒人の解放とは遂に一大公民権運動へと展開していくことになる。しかしそのようにして都市の中で黒人の力や存在感が強くなっていく一方、白人たちは郊外へ家をもち一気に集団移住しはじめるという現象が起こった。郊外で画一的な町並みを建設すると同時に、そのような郊外に現れた一角とは、セキュリティの体制を万全とするためには、ゲイティッド・コミュニティと化したのだ。