インターネット一昔

ホームページから幾つかの原稿を削除した。「人間の壊れやすさについて」、「死者の奢り、再び」といったものを捨て原稿にする。原稿というよりもこれらは単にノートの一部とでもいったものだったのだが。いつかそのうち書き直そうと放置にしておいたのだが、どうにも書き直すにも複雑で面倒でいっそのこと捨ててしまったほうがよいという決断になったわけである。思えばこの二つを書いたのは97年でwebの中でであったのだ。一番最初に僕は97年の6月の終りか7月頃にwebの中でホームページを開設したのだ。それは『ProjectHegel』というサイトだった。当時は例の酒鬼薔薇事件の真只中で、僕もあの事件についてはニュースやワイドショーの報道を興味深く追っていたものだった。それで触発されたものを元に「ミッシェルフーコーVS酒鬼薔薇聖斗」というタイトルの文章を急遽書き上げてwebサイトの中に放り込んだ。当時検索エンジンというのはインターネットの中にも少なかったのだが、今はもうなきCSJという検索エンジン社会学のカテゴリーに登録したのだ。その頃は検索エンジンというのは自分で登録すると翌日にはもうカテゴリーに入っていたようなものだった。日本のインターネットのまだまだ草創期にあたるのが97年だったと思う。

当時、僕のサイトのいたプロバイダーはbekkoameだった。何故ならbekkoameが当時では画期的に安かったからだ。ProjectHegelのサイトには4、5ページ上げただけだったのだが、プロバイダーから知らされるサイトのヒット件数を見るとそれが一晩に5千件くらいきたので吃驚した。要するに世間では酒鬼薔薇事件のことで持ちきりでしかも当時はまだそんなに情報系のサイトなどwebの中でも乏しい状態だったので、フーコーvs酒鬼薔薇なんていうスキャンダラスなタイトルで出したから、僕のページへ一気にアクセスが流れ込んだのだろう。最高一日7千件で3千を上回るような状態が一週間くらい続いたので、僕も実は最初にそれでいい気になったというのがある。インターネットってこんなに凄くってかつ楽勝なものなのか、と高を括ったところがあったのだ。

97年当時、僕はまだタクシーの仕事をしていた。東京のタクシーで池袋にある会社にアルバイトで週に二回ほど乗っていた。(タクシー業界ではアルバイトのことを定時制というのだが。タクシー業界でアルバイトがあるというのもあんまり知られていないんだよね)東京でタクシーを流し家に帰ってきてwebサイトをいじくっているような生活というのがしばらく続いたのだ。最初に高を括ったので、しばらく好き放題なことをサイトに書いていたものだった。随分ヤバイことも当時書いたはずだった。今となってはあり得ないことなのだが、当時はそれだけまだインターネットというのが正体が不明で、かつ甘く、かつ妄想を許容しうるような未開の空間だったことによるのだろう。ProjectHegelというサイトを僕が精力的に制作していたのは97年の7月から98年にかけてだった。その頃webの中で書いていた文章が、今のサイトのノートに上がっているのだ。僕はタクシーをやっていた頃は小説を完成させることを中心にしか元々は考えていなかったものだ。いつかそのうち哲学評論のようなものも書きたいと思っていたのだが、それは先になるだろうと思っていた。ふとしたハズミの切欠から、このような、小説ではないもの、を書き始めてしまったのだ。

それで98年以降の流れというのは、僕があかねやだめ連と関わり始めた展開になったのだ。あかねの店が開店したのが98年の4月だが、僕があかねへよくいくようになったのは、98年の秋以降、終わり頃からだったと思う。あかねやだめ連の付き合いというのはそれ自体で内容が濃くて充実しているので、自分でサイトや原稿制作をこまめにやるような作業からも忘れさせてくれる側面があったのだ。だからそれからしばらく僕は書かなくなったのだが、それは要するにだめ連の界隈との付き合いというのが、それだけコンテンツが豊富なものだったことに拠るものなのだ。

昔、書いていた評論系の原稿で、この先も使いたいな、残したいなというものは、どうやら殆どないと思う。だから今のサイトに上げているものは、あくまでも暫時的暫定的に、それを紹介しているだけで。いずれも一定の期間がすぎればみんな廃棄処分にするのではないかと思う。あれでは書き直すほうが面倒なのだ。それにもう昔書いていたものは、どういう積もりで僕がそれを書いていたのかも覚えていないのだ。だから昔の意味不明な原稿に無理に自分で付き合ってやる必要は僕自身ないのです。ばっさり捨ててやって全然かまわない。ただ紹介がてらになるようなもので、他に適当なネタが現状では見当たらないので、暫定的にサイトでのせている。昔、書いていたネタ、内容というのは、これからみな新たに全く別の形で書き卸しにするでしょう。