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1.
「でもさ。エンパイアステイトビルの地べたからは見えなかったアメリカのプライドでも、ビルの上から眺める景色には、よっぽど壮大な迫力とその強度に迫るプライドが感じられるということではないのかい?」

「なるほど。ビルディングがあればそれは上まで昇らないとダメだったのか。そのビルディングが存在してることの意味を知るためには」

「そうだよ。かつてはキングコングも登っていたエンパイアステイトビルじゃないか」

「ははは。じゃあぼくもいちいち金払わないで勝手に外側からよじ登ってやればよかったのかな。昨日は、有料であること分かってるし、しかも入場料結構高いらしいし、もう夜だったから上まで行かなかったよ。」



2.
「僕らはまるでニューヨーク市の下水道みたいに暗く地味でしつこく走る地下鉄ばかりで移動していた。しかしこの街の意味は高みから踏み込まないとよく見えなくて不明な部分もあるよ」

「だったらぼくらの散歩は最初から国連本部でも入れておくべきだったでしょう。でもそういう景色はテレビで見られるよ。ぼくは下水道のような地べたから見た角度のほうが、ずっとリアリティがあったよ」

「でもね。もし国のシンボリックな部分がプライドによって統合されていなかったらどうなるだろう?これは深く、何故人間はいつもプライドを何かに託して必要として生きているのかという意味にもなるけどさ」

「もしプライドを持たなかったら、その国は滅びるだろうね」

「プライドを持たない国は滅びるって?」

「そうだ。それはもう古代中国の孔子諸子百家の哲学からテーマになってるよ。そもそも辿れば古代に中国の哲学とは、よき国家と悪しき国家の存亡を巡る必然性から始まっているよ。だから最初からそれは切羽詰まった問いだった。何故ならそこでボヤボヤしてる人間はただ真っ先に殺されて消されてしまうような激しい原始的な生存競争が起きていたから。それも単なる生物の生存競争ではなくて、人々にとって精神的な意味を巡る生存競争だったわけだからさ。」



3.
「そのプライドというのが虚構であってもかい?」

「そう。虚構か本当かは実はどうでもいい話であって。精神的な統合がうまく情念的にも為されない国家は、まず他の国家との競合で負けてしまう。つまり嘘でもいいから国が滅びるのを避けるためには、常にそんな意味不明にも突然他から押し付けられる競争にも耐え切れるだけのシンボルを必要としていた。つまりそれが精神にとって、プライドの発生して象徴的に発達し進化してきたことの意味だよ。」

「それは国家についても言えてるけど個人が生きるということにとっても同様なことがいえると?」

「そう。国家も個人もまとまり方としては同様だ。似ているんだよ。何よりもまず、他者の存在に脅かされて、自分は滅びないために、何だかわからなくても、その統合する意味は、必要とされてきた。」

「つまりそこに意味は不明で説明しきれなくても、なぜだかそれは必要とされてきたということかい」

「他者への脅威ということもあるけど、そこには他者への恥ということもある。。。だってプライドという言葉にとって、複数ある対義語の一つである、恥の感覚というのは、元来そういうもんでしょう。恥の感覚は、必要だけど、必ずしも積極的なものではない。恥を自覚できない文化は、そりゃあ滅びるよ。。。」

「そういうことだね。空気のように人はそれを吸い込んで、また吐き出しながら、生きているよ。」