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1.
早朝の閑散とした空港ロビーの中でエスカレーターに立ち、上昇していった。広々した空間の中でまだ僕の他にこの長いエスカレーターで乗ってる人は一人もいなかった。しかし無駄に贅沢に電動のエスカレーターは時間の中で律儀に運動を続けていた。そして静かなロビーだった。天井も高い。

聞こえてくるのは忙しげな掃除の物音だけだった。後はエスカレーターそれ自体の動いているモーターの音。まだ人間の気配は薄いロビーの中で響いているのは。

それが上の階まで到達したとき、目の前に広がるのは、向こう側にまだ動いていない搭乗用のゲートが無人で並んでいる風景と、手前には、利用者たちのために備えられた白く簡易な椅子とテーブルが並び、両側にはまだ開いていないそこをカフェのように使うためのコーヒーやハンバーガーの売店の数々だった。

一見すると無人のように広がるその白いテーブルと椅子の合間に、一人だけ、究極Q太郎が、疲れきったように座っており、肩をたれ、目をつむり、頭をうなだれ、そこで眠るように座り込んでいる彼の姿だった。



2.
僕はからだの内側からアドレナリンのような快感物質が放出し広がるような気持ちを、自分の背後から脳天にかけて突き抜けるように感じた。そして嬉しくなった。

最初にそれを見つけたときはエスカレーターの頂上に上り切った場所で、彼の数十メートルくらい手前で発見したものだろうか。

そこから僕は駆け出していき、わざと足音を高く上げるようにバタバタと技巧的な走り方をして興奮をからだで表現しながら、そして首をうなだれて座っている究極さんの手前まで猛スピードで突進していって、ぶつかる寸時の直前でピタリと止まった。

何物かに急襲される時のような人間、あるいは動物の本能をそのとき彼は感じ取っただろうか?

急激な物音の接近にも特に驚くだけの気力もないように、彼はダルそうな首を上げて向けた。ナニ?という感じで。

「きゅー、きょく、さんっ!」

ホップ、ステップ、ジャンプ、という節で。僕は笑いが止まらないように呼びかけた。

あー。。。という感じで、メガネをかけた顔を上げ彼は僕の顔を確認した。

彼はきっと昨夜はよっぽど疲れきるほど歩き回っていたのだろうて。思えば深夜には吹雪に見舞われていたニューヨーク地方の天候だったのである。