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深夜で無人のすべてが機械仕掛けで動いているモノレールから降りて、僕は6番ゲートの建物に入った。ゲートの中を歩いて行くとそこには広い待合室が開けていた。深夜なので上の電灯は消しているが、薄暗くなっている広い部屋には、翌朝の発着を待つ人々が、たくさん座っていた。やっとここまで来て暖かい普通の人間の空間に到達できたと感じた。ごく普通の空港待合室だ。深夜だが横に売店はひとつあいている。パンやらビーグルやら温かいコーヒーやら、新聞やら雑誌やらキャンディーやらを売っていた。深夜だから静かだがそこには明らかに人間達の生きた空間が開けていた。意味不明でシュールな空間をずっと突き抜けてきた僕は、ほっとした気持ちになった。

僕はまず最初にトイレにいった。広くて清潔な空港のトイレだった。これにもまた安心した。そして洗面台で一回顔を洗った。守られている気配、そして暖かい人間達の生きている気配が久しぶりのものに感じられた。今までここまでやってきたあの異次元のような夜の世界は何だったのだろうか。必要のない電灯は消している天井の高い薄暗い待合室には30人程度の人々が存在していた。翌朝の飛行機をここで待っていた。低いざわめきとして人間の喋る声は途切れることもなくこの空間の通低音を為していた。並んでいるベンチは硬いものでソファではなくやはりここも最低限に節約は見積もられているという空港の待合ロビーだった。

床の上に僕のカバンを置いてそこを枕にして横たわってみた。硬く弱冠冷たい床の感覚が僕の体を通っていく。最初はそこで体の熱は薄く奪われていく。それでも外の、もう吹雪の模様になっている寒さと比べたら断然に楽な空間だった。しかしここで寝てしまうのはやはり気を使うものだった。時折床に寝ている人をチェックして空港のセキュリティガードが監視して回ってる模様である。だからそういう監視する係員の目を盗んで、うまくここで眠れないものかと考えてみた。時々立ち上がったりベンチに腰掛け本を読んでるふりをしたり、幾つかポーズはありそうだ。監視する係の目を盗んでうまくここで安らぎを得る。その為にはどうしたらよいかと考えあぐねることは、それもまたそれなりにアメリカ的な身の振り方かもしれないなと思ったら、笑いがこみあげてきた。

他人の目を盗みながらうまく床で横になり、そして目をつむると、村田さんと飯塚くんの顔が浮かんできた。