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僅か数日前訪れたばかりだがもう既に懐かしい気もするライブハウスCBGBの表看板を、大きな道路の反対側から見ていた。雪まじりの小雨が降る夜の大通りを、車の列が無数に絶え間なく通り過ぎていく。既に賑やかでうるさいほど人間が動くものの気配を感じさせるニューヨークの真中に立っている。向こう岸のような通りの静かに人が行き交う歩道のうちに、無意識ながら究極さんの面影を探しているような気持ちになった。はぐれてしまった究極Q太郎は今どこをどう歩いていることだろうか。もしかしたらと妄想混じりの気持ちを向こう側に投影してみても、決してそこで彼を発見できるわけではなかった。車の通りが激しい大通りを背にして再び、歩きやすそうな空間の方へと、地下鉄の出入り口がわかりやすく見えている方へと、立ち並ぶ商店の明かりに沿って歩いて行った。途中ちょっとしたファーストフードめいた店があり、そこはハンバーガーがメインなのかケーキのようなお菓子がメインな店なのかも判別できなかったが、よくありがちな店に見えるだけに安心した気持ちになり、入ってみて小さなレモンケーキとホットコーヒーを頼んだ。店の中では暖房が効いている。相変わらず座席の感じは簡易で素っ気ないような座り心地だったが、そこで口に入れたレモンケーキの味わいは、有難いほど旨かった。ホットコーヒーを胃に流しこむと体の芯から凍えていたものが今溶けていくような気持ちがした。再びそこで思い出したように尿意を感じとり、こんどはトイレに行って用をすませた。さっきあんなに長い長い小便をしたばかりと思っても、まだまだ出る量はたくさんあったみたいだ。どこにこんな余分な水分が僕の内側に残っていたのだろうかと思わせるほど。よっぽど外が寒くてかつ緊張していたのだろう。洗面所で手を洗い鏡に写った自分の姿を見ながら、顔が不自然に赤く熱をもっているのを確認し、ちょっとぼうっと立ち眩みを感じながら、このまま風邪の具合がぶり返して来なければよいがと、ちょっとばかし面倒で不安な思いを感じていた。席に戻ってもあんまり長居ができそうな、したくなるようなカフェでは決してそこはなかった。究極Q太郎が今の時間ならどこの辺を歩いているだろうかと見当をつけようと想像してみた。色々ここニューヨークについて究極さんが繰り返していた発言を改めて思い出し、正確に総合してそれは割り出さなければならない。記憶を絞り出す作業だ。