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42番街の一角に大きなスポーツ用品の店があったので入ってみたのだ。

まずマンハッタンに着いてからここの寒さには最初随分苦労させられたので、ざっとトレーナーやブルゾン、ウィンドブレーカーなど寒さを遮れるようなウェアにはどんなものがあって幾らぐらいするのかを見ていた。それなりにアメリカ人が好みそうな頑丈そうでかつ安いような上着の品揃えは多かった。僕は結局道端で見つけた中東系の浅黒い顔の親父が売っていたベージュ色のコートを安売りしているのを買ったので、特に今困ってるということはないが、一回極端に熾烈な身体の体験をすると、しばらくの間はそのときの恐怖から感心が自然に上着の種類と値段の調査へといってしまうようだ。

それでざっとウェアが並ぶ横を眺めながら店内を歩いて奥に進んでいった。もっとも棚を多く占めているスポーツ用品とは、球技用のボールだろう。バスケットボールが高いのから安いのまでずらりと壁一面を占めている。隣にはベースボールのものが一通り出ている。そして僕の注意を最も引いたのはアメリカンフットボールの並ぶ姿だった。アメリカンフットボール用の球とは日本で買うとかなり高くなっている。ラグビーボールも日本だと随分高ように思えるのだがそれよりも更にアメフト用のほうが高いのだ。しかし本場とあってそれがここでは見ていて手が出したくなるほどに安いのだ。アメフト用ボールのグレードも上から下まで様々ある。そしてボールにもましてアメフト用の防具は日本でもっと高いが、それも普通のブルゾンのように安く種類も豊富である。その安さと種類の豊かさを見ているだけでなんだか圧倒されるような思いがしてきたのだ。そこで一番安いアメフト球とは、子供が遊ぶのにも使える、ちょっとしたゲーム用で小さめのゴムボールになってる楕円形の球だ。それが6ドル程度で出ていた。何か一つくらいは商品をニューヨークの記念に買って帰ろうと思っていた自分だが、そのゴム製でできたアメフトボールを買うことにした。

結構丁寧な箱に入ったゴム製のアメリカンフットボール。更にご丁寧な事にこんなに安くてもプラスチックの小型空気入れまで箱にはついているではないか。棚からその商品を取ったときさすが商品というモノに対する敬意というのが、この国では徹底しているのだろうと実感したのだ。買うこと自体が嬉しいと感じられるように小さな配慮まで設定してあるといった風な。

レジでドル札を払い、次には自転車が壁に掛かって並んでいるのを見ていた。やっぱり程度の良くてシンプルで渋い本格的な自転車が、アメリカでは安いと思った。

一番安いので70ドル程度。日本円だと7千円を超えるくらいのものだが、しっかりそれだってとことん合理的な形態で仕上がっているスポーツサイクルだ。

一つ閃いたのは、次回ニューヨークに来た時は、まず迷わず大きなスポーツショップに直行して、この程度の値段のスポーツサイクルを一台買う。そしてニューヨークに滞在している間は、特に地下鉄にもバスにもタクシーにも乗らず全部自転車で回りたいと思ったものだ。そうすればどんなに安上がりの豊かなニューヨーク散策が体験できることだろうか。もうそういう次回の対策を想像してるだけで、スポーツショップの商品群に囲まれながら、胸が熱くなってくるのだ。