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「なんかニューヨークで店に入るたび、あっ!ここも時間が止まってると思うんだけどな」

ビルの中階に構える鄙びたチャイニーズレストランの閑散とした店内を見回しながら僕は言った。

「それはぼくらが安そうな店ばかりを選んで入ってるからじゃないの」

究極さんがなかば自嘲気味に笑って答えた。

「そうかなぁ。・・・ニューヨークで得たこの妙な停滞感の印象は、単に貧富の差に基づく視点の高低差が原因なのだろうか」

「東京のスピードが早すぎるんじゃないの?」

村田さんがテーブルに付きざまで首に巻きつけた部厚いマフラーをふりほどきながら言った。

「複数の時間が入り組んでいるようでいて、街の統一的な時間の軸をここでは持っていないということなのかなぁ?」

僕はそう言いながら、ここのチャイニーズレストランはやたら天井ばかりが高いなと思った。

「いや、そういうこともないと思いますよ」
飯塚くんが言った。
「たしかにやっぱり街は全体的には貧しさのほうに多く開かれているし、どうしても埋まらない空虚さを抱え込んだままで日夜運動し、回転を続けている街なんですよね。ニューヨークって。だから全体として見たとき、この街はいつまで経っても停滞している、モタモタしているという感じが拭えないんですよ」

「それは昔からなのかい?」

「まぁ、戦後のしばらくアメリカが景気のいい時代は、上向きだったんじゃないですかね。街全体の空気として。そもそもニューヨークで独特の空虚さを代表している地下鉄の存在感だけど、あの地下鉄だって昔は景気がよくてピカピカ輝いていたような時代があったはずですからねえ」