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「横浜の中華街と比べたらここはえらい違うね」

郵便局の列に黙って並ぶ究極Q太郎の後姿を眺めながら僕は言った。

「横浜の中華街だったらキラキラ輝いてるもんね。しかしここは余りにも泥臭すぎる街だわ」

首をマフラーでグルグル巻きにして紫のコートに厚く身を包んで出てきた村田さんが背後に立っていた。

「どっちが本当のチャイニーズなの?」

「日本の横浜だとそこにいるチャイニーズ達は潤沢な資本とお金の流れに身を任せている。それに比べるとマンハッタンのチャイニーズは、どっかから逃げてきた人々の一団という感じだね」

「どっちもそれぞれにチャイニーズなんでしょう。なんせ歴史の長い巨大な国の流れなんだから。中国四千年か。いろんな角度から中国人は見られるんだよ」

「ニューヨークだと何故だか中国人の待遇はよくないということなのかなあ?」

村田さんの隣には飯塚くんが立ち、三人は薄暗い郵便局のフロアの隅に立っていた。そしてこの石造りの建物のうちには特に暖房なんていう設備も用意されていないようだった。どっかに暖房装置はついてるのかもしれないが、室内の温度はとてもそれを稼働させているようには思えないようだ。

「何も持たないで国から逃げてきたような人々が、こういう場所からもう一度やり直すしかないんでしょうね。」

飯塚くんが語った。中途半端に長い行列が昼過ぎの慌ただしい郵便局の中には出来上がっていたが、究極さんは特に不服そうな顔はせず、黙って自分の順番が回ってくるのを、あの時、待っていたのだ。さて、究極Q太郎という人物の身に背負った運命だが、このあと僕らが旅行から日本へ帰ってきて、しばらくした頃に、失踪してしまうことになったのだ。

究極さんは、ある日突然、僕らの前から消えた。それまでの仲間たちの前から消えてしまった。究極さんは、トミーと二人で失踪した。連絡先も誰にも教えないままに、関係者の間から消えてしまったのだ。何が究極さんとトミーの二人に起きたのか、誰にもよくわからなかった。しかし突然、その失踪は決行された。究極さんは、アナーキストの仲間たちとともに、アナーキスト達の居場所となり、また活動の拠点となるような居酒屋を作り上げた。最初にその店を開いたのは、98年のことだったから、数年間にかけて、地道に新しいその居酒屋の運営を支え、店員にも仲間たちのうちでは最も多く立ち、地道に働きながら、その店を成功させた。必ずしも店の状態というのはよいものではなく、経営の面でも、人間関係の面でも常にその居酒屋は不安定要因を抱えていたが、その都度仲間たちと協議し、支え合いながら、しかし中心では究極さんがもっともそこで苦労しながら、その店を支えてきた。しかしある日突然、彼は作ってきた店のことを後にし、僕らの前から消えてしまったのだ。