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よく晴れ渡ってはいるが冷たい風の強く吹きすさぶマンハッタンの地上に立っていた。それは冬から春へと移行する段階にあって最も中途半端な気温をもたらす故に体感温度では最も寒く感じるよくわからない天気ではある。風は冷たくても空は明るい。そのちぐはぐな気候が街の人々にも奇妙な中途半端な活気を与えているようだ。その日の昼下がりに僕らはチャイナタウンへと入ってきたのだ。飯塚くんに連れられて歩きながら、はじめはどこか繁華街を散歩していたと思っていたものの、しばらく歩いていたら何やらやたら原始的なエネルギーを発散しているような、そこは乱雑なエネルギーのうごめく地域に僕らの足は入っていた。鉄道の狭い高架が幾つか重なり地上の電車が折り重なる古そうだが低めの位置に据えられたホームの駅前が見えて、そこにはグレイハウンドというアメリカ国内では有名な長距離バスが何台も停留していた。そこはきっと古くからずっと使われている駅だから交差するエネルギーと人の量に比べては小さすぎるようなターミナルに見える。とにかく狭く忙しない、落ち着きのないような雑多な空間が開けていて、僕らはその下を通っていった。ある意味ではニューヨークの裏の部分を彷彿させているような、それはとても泥臭い労働の空気の漂う地域だった。狭い駅の前に開ける街並みは両側に並ぶ商店街がひしめくように店を開いていた。これがマンハッタンのチャイナタウンである。そこに立つ建造物は間違いなく古い物ばかりだった。古めかしく50年くらい前のニューヨークに突然タイムスリップしてしまったような感もあるが、しかし紛れもなくそこも今のニューヨークの象徴的な一部分だったのだ。小さな商店の前には満杯になった商品が溢れ出しているようだ。そして狭い通路の空間を、アジア系の顔をした男女がひしめき動き回っている。