12-3

もう為す術もなく部厚い鉄扉の前で、僕と究極Q太郎は立ち往生してしまった。立ち往生といったところで、僕と究極さんの足は、今までずっとニューヨークの街中を歩き回ってきて、しかもその旅はもう数日間に及び、パンパンになっていて、何の意味もなく一箇所に立っていられるような状態ではなかったのだ。途方にくれた僕らは、しょうがないのでその場にしゃがみ込んでしまった。踊り場の床の上で二人はそれぞれ座り込んだ。そこはやっと人がすれ違える位の広さしかないアパートメントの踊り場だが、他にこのアパートのうちで僕らが居れるような場所はない。外はといえばただ過酷な環境だ。氷点下に冷え切った深夜の街並みにしんしんと沈黙の雪が降り積もっている。僕らはここからどこかに移動できるだろうか。宿を他に探すといってもまたそれだと余分な出費がかかる。ここはブルックリンの典型的な住宅街なのだろうが、日本で一般の首都圏の住宅街なんかと異なるところは、深夜になんか開いている店を探すことも難しいということなのだ。日本のように便利に住宅街の中でもすぐに夜の中で明るい光を放っているファミレスやコンビニが幾つもあるというような環境では、全くないわけだ。ニューヨークだから、深夜でも不夜城のようにやってる店は、あるところにはあるのだろう、それは繁華街の中か街道沿いのパーキングエリアなどに。しかしどうもこの不親切な町の中にそんなに便利で優しい店があるような気は全くしなかった。さてどうすればよいのだ。今夜はこのままこの狭い踊り場で体を丸めながら寝てしまうのか。僕と究極Q太郎の経験値ならば、その位過酷な状況で夜を明かすことは結構できるだろう。しかしそういうことをやってしまった後の疲労の度合いというのは、予想するとうんざりするようだ。でもどうしようもない。ここで捨て猫のように丸まって朝までこのうすら寒い室内でいるしかないのか。村田さんと飯塚くんが手を繋いで朝方に帰って来るまでの間だ。