11-1

それにしても村田さんの働いてる職場とはどこにあるのだろうか。イーストソーホーの一角とは決してそんなに広くもない見渡すにも散歩するにも手頃なほどの大きさしかないものだが、しかしその小さな一角の中には山のように数多くのカフェやら飲食店やらイベントスペースやらが、滅多矢鱈に詰め込まれているものだ。手掛かりになってるのは究極さんの手に握り締められた住所の書いてある紙一枚である。この紙一枚を頼りにして僕らは散々、ハンバーガーを食べたカフェと夜中の寂しい公園に辿りつくまで、道に迷いながら歩きまわっていた。一休みしたところで、また探しに歩かなければならない。ごちゃ混ぜになったようなビルとカフェと飲食店の坩堝の中から、その一点を探し出すのだ。こういう時は落ち着いて一歩ひいてから周囲を見渡せる余裕が必要なのではないだろうか。何回かその前を通り歩き回ったストリートの所で止まり、じっと落ち着いて息をひそめ周囲を見つめてみた。そこは飲食店の乱雑に立ち並ぶストリート。ラーメン屋とかあるいはヤキトリボーイとかいう日本食のレストランもニューヨークでは結構繁盛している模様である。ヤキトリボーイの店には電光掲示板で赤い電気の線で描かれて光る鳥の簡易なマンガがイメージとなって輝き、赤い骨だけで出来たスズメが見下ろすようにストリートを照らしていた。表に看板を出してる目立つ店に対して、ビルディングの構造から地下に入るようになっている店も多い。そうか。ここだ。と僕らは考えて、地下にある通りからは窪んだ所に並ぶバーに注意して見てみた。究極さんが教えられた日本風のバーというのは、その地下に並ぶ一群の店の中に見つかったのだ。