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マンハッタンにおけるイーストソーホーの構造というのは、真ん中に一本大きなストリートが伸びていてその両側にいろいろ文化的に面白い店舗や拠点が出来上がっている。イーストソーホーとはロンドンにもあるみたいなのでニューヨークにおける場所のことである。中心になってる地下鉄駅はアストロプレイスという所だ。

アストロプレイスの地下鉄出口をでたところにはちょうど、セント・マークス・ブックストアという本屋があって、この本屋の品揃えは文化的に厳選されたものとなっている。そして周囲には、カフェが様々に開け、自主的なイベントスポットのようなものが幾つも出来上がっている。真ん中の目抜き通りになっている所を、僕らはぶらぶらと何回か往復した。夜になって適度に腹も減っていたので、飯が食えそうなカフェを探した。

アメリカらしい食事、それはやっぱりハンバーガーだろうか。大きくてボリュームのあるハンバーガーを食わせそうな迫力ある佇まいの店を見て、僕らは入っていった。そこはかなり大きなカフェテリアだった。夜の店内は既に多いに賑わっているようで、色んな人々の声が場所にこだましていた。大きな店内の騒音のようなざわめき具合は、このイースソーホー地区の若いエネルギーそのものといったようだった。いかにもニューヨークらしい店でいかにもニューヨークらしい食事を頼む。それは大きなハンバーガーとコーラをジンで割った飲み物だった。ただこのカフェテリアに入って面白い構造だと発見したことは、トイレの為に席を立ったときに見つかったものだ。カフェの表から入ったところは、普通のレストランのようになっている。そして奥に行くと弱冠店内の照明は暗く落とされており、ダーツやビリヤードをしている人々がいる。そこにはちょっとした大きさのプールバーが薄暗がりの中でひらけていた。ビリヤードの台が何台かあって台の上に半座りするように腰掛けて棒で狙いを定め集中している男がいた。薄暗いライトの中で壁のダーツに向けて矢を放っている者ものもいた。しかし、このカフェにはまだ奥があって、そっちのほうの光に向けて抜けていくと、いきなり大きなフロアが現れ、そこはライブスペースのようになっていて、真ん中ではコメディアンのような女性が立ち、ずっと何かを喋り続け、そして椅子に座ってる観客たちに向けて、ずっと持続的に静かな笑いを引き出している様子だった。こういう複合型というか、構造が多層化したようなカフェの様子というのは、そういえば映画かアメリカ産のテレビドラマのようなものの中で、見たことあると思った。多様化された階層のスペースで、いずれのフロアも人は多く、そしてそれぞれの活気に充ちていた。これがニューヨークという街の生産的エネルギーだとするなら、成程、確かに大したものだと感心させ、捻らせるものだった。トイレに立ってからちょっとした迷宮にまよいこんで来たような気分の僕は、席に戻り、究極さんに、この店、なんかすごいですよ、と言って報告した。