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夜になって歩いていた場所はイーストソーホーだった。究極さんと肩を並べて暗くなった舗道を、ビルディングの密集からは程離れたマンハッタンの区域を歩いていた。マンハッタンの中でも煩気な場所があり商業的な場所がありビジネスライクな場所があり、そしてそれらの過剰なる交通の集中で熱くなったような地域を取り巻くようにして、普通に人が住めるような、少しばかりは時間が緩んでいる、隙間に自然発生の群によって巣食われたような場所がある。アッパーイーストサイドのコロンビア周辺の山の手的な住宅街だとあれは計画的に区切られた厳格な居住区なのだが、しかしここイーストソーホーのような下町的な雑多な居住者の要素が入り交じる場所では、アリの巣のような自然発生性が開けているのを確認できる。

村田さんは、このイーストソーホーの一角で日本人居酒屋で働いているのだという。村田さんの居酒屋へと向かう途上にあって、僕らはイーストソーホーの街並みを感心しながら眺めていた。