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よろけるようにもつれた足取りで歩き出し、寒い日の午後、ビジネスライクな空気の漲るマンハッタンの街角をしばらく流れていた。ここの人々はビジネスマンが多いのか、あるいは中には学生の数も多くカジュアルな様相で歩いてる人も多いのか、そして車が混雑する大通りの向こう側には大きな本屋の看板を見かけた。ショッピングのような人も多く、また何も目的が分からない様相の人も多く、要するにそこは普通に混雑した都心の一角だったともいえる。「BARNS&NOBLE」の看板が曇り空の下に光っていた。あれがアメリカの大きなチェーンのブックストアだということは僕にもすぐ分かった。石造りのビルディングの間を縫って、緑色の帽子か緑色の服装に身を固め、プラカードを掲げた人々の一団が歩いてるのが見えた。彼らは何かの特殊な衣装に身を纏っているが、背中には大きな赤い十字を入れて歩いている人もいる。あの緑色のイメージでそれが何だかわかった。あれは究極さんの言っていたアイリッシュの祭に加わる人々の一団なのだ。彼らはアイリッシュ系のカトリックである。僕はそれがどういう祭なのか知らないが、アイリッシュ系の移民にとっては大きな祭であり、昔から続く儀式的な祭典のようだった。しかし、その光景をちらっと垣間見た限りだが、あの様相で十字架を掲げ宗教的な意識を持った人々の一団というのは、ちょっと僕にはとても着いていけないような気がした。そこの発する宗教性のにおいに食傷したとでも言おうか。そうでなくでも気分の悪い頭の状態が相まって、ちょっと緑色のキリスト教徒の一団は、僕にとって直視しているに耐えなかった。そんな風に見えてしまう僕というのは、よっぽど気分と体調も行き詰まっているのだろうか。別にただのアイリッシュ移民の伝統的なお祭りであって、彼らに何の政治的意識があるとも思えない。ただ常識的で安全ではあるが、中味は限りなく薄い、儀式として間抜けな毎年繰り返される凡庸な祭の光景のようであるのに。

気温は相変わらず低く寒さは半端でないが、マンハッタンの街角は煩いほど人が歩いていた。僕はバーンズ・アンド・ノブルの本屋に入っていってそこにある本を眺めていた。二階建ての作りで見通しのよい吹き抜けのフロアを贅沢に使ったフロアだったが、店の奥まった所には文学書や哲学書の棚が、潜まったように置いてあり、そこは店内でも最も静まり返って音が少なく、何か秘境のように静かに佇み用意されてるような本のスポットであり、そこが絨毯敷きだったことにも安心し、僕は床の上に腰を下ろして並んでいる英語の本の幾つかを手にとってしばらく読んでいたのだった。そこで気持ちを鎮静するようにしながら。ここの本屋というのはうまいこと作りと構造が出来ているなと感心しながら。