9-9

大学の中で混雑を眺めているのも次第に疲れてきた。僕はどうも一箇所に留まっているとただそれだけで気分がもう悪くなってきてしまうのだ。単に飽きたというだけでなく、じっとしていると体調の悪さまで直に向い合ってしまう。実際気分の悪さはまだ続いている。中途半端な昼飯に食ったカレー粉の強いベトナム麺とか、まだ胃のあたりでわだかまっているのが自覚された。もうここに居ても気分が悪い。僕は大学の校舎から外へ出て行った。どこまでも陰鬱に立ち込めている曇り空の下で、マンハッタンの一角である。車は通りの雪を踏みつぶす飛沫をあげながら音を立て行き交っている。ビジネスマンやその他で昼間のマンハッタンは忙しい。歩道も多く人々がすれ違う。カレー粉の刺激物がチクチクと胃を蝕み痛めつけているのをさっきから感じていた。そして歩きながら眩暈もする。しかし何処にも座って休めそうな便利な場所は、このビジネスライクな町の一角には見当たらない。マンハッタンに設けられている歩道とは貧相で味気ないものだ。人を楽しませるような余裕に配慮されていない。これと比べたらまだ東京の歩道というのはよく出来ている。あれは人間のために配慮されている歩道の作りなのだ。とにかくシンプルで、最低限の予算のかけ方で、素っ気ない。それがニューヨーク的な公共性の条件だろうか。僕は、曇り空と雪の湿った空気の混じる中を歩いていたら絶望的な気分になってきた。もう体の中で燻っている異物を吐き出してしまいたい。