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バスを運転しているのは黒人の運転手だ。リズム感の良さげな三十代位で痩せ型の黒人男性だった。車内に人は特に多くない。昼下がりの低い日光が斜めに奥深くバスの車内には差し込んでいる。外は賑やかだが車内は静かな対比を示している。ニューヨーク市にしては平和なバスの車内なのかもしれないが。そしてバスの車内もやっぱり木の硬い座席でそこにペイントを塗ったものだった。冬の最中にそういう座席は尻にもきっと堪えることだろう。バスはそのまま夕暮れ時に近づくマンハッタンを北上していく。太陽が傾くと共に町のネオンは輝きをくどく増していく。そして薄い暗さは夜へと向けて更に倍掛けしながら町のエネルギーと喧騒を引き出していくようだ。バスの運転手はリズミカルで面白く見ていても飽きないのだが、運転はとても雑に感じられた。バスが停まるとき直前までスピードを落とさない。道路の傍へビルの傍へと直前まで突っ込むように走っていって突然ハンドルがくるりと切られ急停止する。そして勢いよく自動ドアが開く。運転手が急ハンドルを切る感覚をバスの乗客全体で共体験するといった感じだが、バス停が巡り来るたびに何度もその体感を繰り返す。ジャズでもいいが激しいリズムに慣れている人ならこの運転も苦にならないのかもしれない。ある種の人はこういう運転のほうが気持ちがさっぱりして好きかもしれないが、またある種の人には耐え難いかもしれないなと思わせるものだ。僕は安全ならいいと思うのだが、しかしバスを停車させる際なぜこのバスがどこにもぶつからないのか乗ってて不思議になるほどだった。