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昼時を少し過ぎた頃僕らはブルックリンの村田さんの家から出てきた。空は快晴だがストリートには昨夜降った雪の名残が多く残っている。三月のニューヨーク市である。地下鉄に乗り込む前、村田さんが僕らに教えてくれたのは、ニューヨーク市内を周回するためのカードだった。12ドルのICカードで、それを買えば一週間のあいだ市内の地下鉄とバスは無料で周遊することができるというカードだった。東京の地下鉄でもこの種の割安周遊券は売られているだろう。改札口横の自動販売機でそれは買えた。日本の自動販売機と比べたら鈍く、冷たい感じのする四角くて重たそうな図体の、冷蔵庫のような機械でカードを買った。ICチップスの入った薄っぺらいカードだがこちらのものはこういう製品一つ一つの作りが雑だ。そして無造作で非人間的な感触がする。ペラペラとした薄いプラスチックのような頼りないカードだが取り敢えずそれを買った。一回地下鉄に乗るのに1ドルと少しぐらいだから12回以上乗れば元は取れるというものだ。ペラペラのカードを指で挟んで宙に浮かし眺めるとなんか悲しい気持ちになりそうな、そんなICカードだった。この薄っぺらさと同様にこの大きな都市では人間にとって個人一人の存在感というのが儚く揺れているという見方もできないではない。一個の大都市にとって、そこで配布される製品一つ一つのチャチさとは人間の存在感の小ささにも似るだろうか。少なくとも東京に存在する製品のつくりとはこれよりはましな気がした。日本人の作って配るものはもっとしかっりしているはずだという気が。バスに乗り込むときも、前方の入口で一回機械にこのカードを潜らせた。ベルトコンベアのように素早くICを読み取って機械の口から出てくるカードを抜き取る。薄くて弱弱しいカードだ。ポケットの中にでも入れているとすぐ折れ曲がって使えなくなりそうなICカードだから傷つけないように少々気を使いながら財布にしまった。