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成田を出発する日の午前中から昼下がりにかけて、京成線に乗って空港まで向かった。三月の脳天気な季節外れ感の漲る暑い日和で、成田の奥にまで続く気の長い鈍行電車だった。究極Q太郎とトミーと僕の三人は、電車の窓外に広がるだらだらとした風景をおかずにしながら、平日昼間の蝶番を外れたような気の長い時間性を楽しんでいた。

その日トミーは上機嫌ではしゃいでいた。躁鬱ということでいえば躁の日だった。ハイテンションの彼女にも慣れているが逆に沈んだときの重たい彼女の気持ちを読むのは難しい。その日は最後まで気分の垣根は崩れずこの不思議な渡航を彼女は見送ってくれた。そもそも最初このニューヨーク行きはトミーが言い出しっぺだった。それで話が膨らみ同行者を募り僕も輪に加わり本当はもっと大所帯の旅行団になる予定だった。直前になりトミーの気が変わり、彼女の気紛れなのは既に痛いほど理解していたにしても他の数人も次々と落ちていって、結局最後に残ったメンバーは僕と究極の二人だけだったというわけだ。最初からこの二人だというのなら今回の旅行企画など端から起きなかった。とても起きようがない。泡を食わされたような僕ら二人だが奇遇な旅立ちの運を甘んじて受けることにした。誰かに外から振り回されることがなかったら僕らのようなメンツに、とても生活の積極的切断を促すような出来事など起こりようがないことはよく知っているから。

昼の2時過ぎに空港から離陸する飛行機だった。空港に着いたのは地下の駅で、白く光るだだっ広いホールの中をエスカレーターで上昇していった。出発までの時間、三人で蕎麦屋に入った。空港内蕎麦屋における値段の高さに若干辟易しながらも、空港内のちっぽけな日本性の味と意味を渡航の前に確認してみた。蕎麦を啜った後でロビーでトミーと別れチェックインした。空港ロビー内にある東京銀行の支店で両替して円をドルにかえておく。残りの時間は免税店を眺め、旅行中ずっと吸っても間に合うだけの量のたばこをカートンでまとめて安く買っておいた。日本で最もポピュラーなマイルドセブンの例なら一箱300円程度で普段買っているたばこが税金を抜けば170円で買えるのだ。カートン買って1700円だ。僕はこの旅行の為にラッキーストライクをワンカートン買っておいた。なんか異様に得したような気がしてしまうが要するに普段それだけ税金で搾られているということではないか。ぶらぶらしながらそんな事を考えた。

時間が来て僕らは待機している飛行機の中へと入った。