三軒茶屋

日曜日に三軒茶屋へ行った。目的は見逃していた映画を名画座で見るため。黒沢清のLOFTをまだやってる劇場がそこしかなかったのだ。三軒茶屋中央という名画座。はじめて行く劇場だ。午後の4時からの上映だった。埼玉から向かったのだが、休日のターミナル駅で乗換えを繰り返すことが、人の多さを予想してたまらく嫌だったので、最も乗り換え数の少ない行き方を考えた。有楽町線で永田町から半蔵門線でいけば、うちから乗り換えが一回で済む。一時間くらい前に三軒茶屋に着いた。三軒茶屋という町に駅からおりて行った事というのは記憶になかった。三茶というと世田谷線の乗換駅でもある。世田谷線を使ったことは僕の生涯で二、三回の記憶があるので、三軒茶屋も何度かは通ったことがあるのだろう。歩いたことの記憶はなくとも、ここは車では何度も通ってる場所であるはずだ。三茶の交差点とは、246号線と世田谷通りの交差する場所に当たる。つまりそこは昼間ならいっつも車が渋滞してる道でもある。

三軒茶屋の駅で、地下鉄駅から地上に出てみると恐ろしい程そこは人込でごった返していた。車の大通りがあって歩道があるのだが、歩道が古くて狭いため、必要以上に人で混んでる様な感覚にさせるのだろうか。とにかく狭い道には人がぎっしりだったので、最初はちょっと辛かった。名画座の場所もよくわからなかったので道に迷った。幹線道路は車で混雑しているし、人の通れる路はどこも昔の古いものなので人込でやられている。沸騰してるように落ち着きがなく何処も溢れている。渋谷や新宿や原宿の道よりも、体感度的には、この町の方が混雑してるように感じた。知らない町でしかも道がわからないから尚更その感も強めたのかもしれないが。とにかく三軒茶屋というのは狭い町だというイメージを覚える。空の上には高速が通り町を遮っている。高いビルが何軒かその間を縫って青空に聳えてる。どうにもバランスの悪い町だという気がした。下の道はみな高速道の影の中に入ってしまう。途中で道を二回訊ねてなんとか名画座に辿りつく。まだ時間があったのでドトールコーヒーでベーグルを食べる。ドトールの店内までまるで潜水艦の内部みたいに狭くて通りにくいつくりだった。

それは昔ながらの古い名画座だった。懐かしいといえば懐かしいかもしれないが二十年前はこういう劇場がまだ機能していたものだが、もう珍しいくらい。土色をした壁に年期の入った古いガラス戸の扉。それを押して入る。外から見た時はぼろかったが、中に入ってみると思いの他、清潔な館内である。造りは古いけど床はピカピカに磨いてるのがわかる。発券はデジタル型の自動販売機。きっと映画ファンの関係者が丁寧にこの歴史の古い劇場を管理しているのだろう。LOFTともう一本ディセントという映画が二本立てだったが、とても二本見れる体力はもたないだろうと最初から思っていた。二本ともジャンルは恐怖映画という事に当たるのだろうブッキング。ディセントというのは洋画で、洞窟の探検で恐怖の地底人に遭遇するというものみたいだ。これはそのうちもし機会があったら見てもよい。ひょっとして面白いのかもしれないから。LOFTは千年物のミイラが出てくる話だからそれが地底人のイメージと被ってこういう二本立てになったのか。

一番前の席に座った。膨らみがもうぺったんこになったソファの椅子。木製の低い舞台にスクリーンが架かっている。赤いビロードの幕が端についていて、近所の中華料理店の宣伝が金文字で入っている。上映中に、人が途中から席に入ってくると、ドアを開けるたびに場内が明るくなるという状況も久しぶりに体験した。そういえば昔の劇場はこうだったよなと思う。吉祥寺に昔あった劇場を思い出した。今はバウスシアターがある場所は吉祥寺武蔵野館という、こういう昔の劇場だったのだが、僕が高三の時に場所を全面的に建築しなおして今のバウスになったのだ。シアターの下はレストランや店舗が入れるようになっている。吉祥寺武蔵野館で僕が最後に見た映画は『食人族』だった。冬の雪の降る寒い日に親友と二人で見たのだ。そこはロードショーが月一位で入る他はポルノをかけていた。三鷹の駅前には三鷹オスカーというぼろくて今思えば汚い劇場があった。今は三鷹市民ギャラリーになってる場所である。三本立てで800円くらい。そこでレッドツェッペリンの熱狂のライブとかフーの四重人格とか見たのだ。こんな古い劇場を今でも頑張って使っている三軒茶屋という町をちょっと不思議に思った。あまりにもアナログな時代の記憶の再現だった。最後に三軒茶屋の名前の由来について考えてみた。昔はここは街道沿いの目印として三軒の茶屋が並んで立っていたのだろうか?