Money Changes Everytihng−シンディ・ローパーのリベラリズム

シンディ・ローパーを見ていると面白い。ただそこにいるだけで見ていて飽きないキャラではある。シンディは1953年生まれのアメリカ人である。シンディが表現しているのは、いつも存在の過剰性である。特にそれは、女性性における過剰なものの実在を如何に昇華させうるのかというのが常にシンディのテーマになっているのだ。彼女がブレイクした作品は83年の『She's so Unusual』だった。『Girls Wanna Have More Fun』と『Money Changes Everything』が収められている。これらは不思議なパワーを発散している曲である。何度聴いてもそこから抽象されて出てくるのは、力の実在である。純粋な力能性を引き出して表現することにシンディのスタイルがあるのだ。シンディがプロレス好きなことは有名である。日本のものとは随分と気風が違うアメリカのプロレス的メンタリティを補完しているのが、一方ではシンディ・ローパー的な女性性であることには、見事な論理的整合性がある。シンディ・ローパーの力によって情動が解放されうるのだ。それはアメリカ社会において、教会による解放よりもよりラディカルである。

この曲の歌っている内容自体は他愛無いものである。私たちは後先の事なんか考えないで生きていた。愛し合っていた。そうしたら気がついた時、マネーがすべてを変えてしまった。運命の糸をひいたのは私達ではない。でもお金がすべてを変えてしまった。・・・という話である。本当に基本的な生活教訓といったものだ。でもたったそれだけの事が、シンディの手に掛かるとこれだけドラマチックに演じられてしまうところが凄い。

シンディ・ローパーはニューヨーク生まれである。17歳で愛犬と一緒に家を出た。それでシンディの遍歴した職種が面白い。ウェイトレス、絵のモデル、競馬調教師の助手、空手教室の呼び込み。・・・彼女はアートスクールにも通った。シンディは子供時代にカソリックスクールの寄宿舎で生活したことがあるそうだ。修道女から体罰を受けたという。いつも場違いで外れていて、周りから変な目で見られていた。それがシンディのコンプレックスだった。シンディの視線の持ち方が特徴的で面白い。彼女は最初にまず他人と目を合わせない。何か過度に恥ずかしそうな感じで視線を下に逸らしている。それが歌い始めると次第に目つきが変わってくるのだ。このシャイな視線と内に込められた情念の熱さのギャップがとてもいい。ビデオでもその独特のシンディの目線というのが伺える。シンディはよろよろと歩き出し、そして気がついたときにはもう、体一杯でパワーを表現するだろう。