JUMP

また素晴らしいビデオを見つけてしまった。これは20世紀のある一時期には高名で通ったかの御方である。覚えている方はどのくらいいるだろうか?もう今の若い世代は知らないのではないだろうか?この御方の事を・・・。しかし彼のファンというのは根強い。実はあの村上春樹さんも隠れファンだったのだ。村上春樹氏はそれがもう相当に売れなくなった時期においても、まだ彼のソロアルバムを買いレポートを報告してくれた。確かに彼は面白かった。春樹氏の目の付け所の通りである。彼の動向にはついつい目がいってしまった。何気なく無視できなかった。

しかし、そういう彼はやり方も相当あざとかった。最初に仲間と育て上げた某ビッグなハードロックバンドを裏切り、突然脱退してソロに転向した。彼はアメリカのナンバーワン・アイドルになろうとしたのだ。はじめは行く先もなかなか順調に見えた。彼が前バンドに対する当て付けのようにして出したアルバムはタイトルも挑発的だった。それは『Eat'em and Smile』である。見捨てられたバンドのほうも必死になった。対抗するべくして新しいヴォーカリスト要員を発掘した。それで伝説的な対バン闘争が生まれたのだ。昔のバンドのほうは路線を変えて完全に硬派へと転向した。一方、彼のほうは元から潜在的な軟派にすぎなかったにしても、その軟派路線を更に突き進んだ。彼は自らの軟派道の果てにこの到達点までいったのだ。それなりに凄いものでなかろうか。これはたぶん海軍の催しのビッグパーティに現れた彼の姿である。

彼はやっぱり我々の期待だけは決して裏切らなかったのである。これを彼の非転向と呼ぶべきだろうか。確かに彼は転向していない。デビューした二十代の時からポリシーも変わっていない。やがて彼はもっと本格的な伝説と化して、彼の自叙伝が語られるときが近い将来に来るのではなかろうか?その時を期待したい。もし、アメリカ人的な性質の一側面としての、「ヤンキー」とは何か?という問いが為されるなら、彼の生き方はまさにその定義を示すものだろう。その本質的な線を宿命として生きているのがまさに彼の人生なのである。

彼にとってツッパリの頂点にあった時代、彼のソロバンドは初代ギタリストがスティーヴ・ヴァイだった。これもまたロック史上に輝く伝説である。80年代の一時期に彼は確かにLAメタルシーンをリードしたのだ。彼がビーチボーイズの名曲、カリフォルニアのウエストコーストを讃えたあの賛歌をカヴァーしたとき、アイドルとしての彼も極まった。彼は自分では手に仕切れないほど数々のバラを受けたことだろう。でもやっぱり憎めなかった彼?いや・・・でもきっと彼を憎むことにも一理あるのだし、我々の立場にとって、それもまたよいのではなかろうか。そして今でも彼はやっぱり健在である。彼はいまだにこうして『命がけの跳躍』に人生を賭けているのだ。