20年後に『それ』がまた開催される

85年にライブエイドという大きなイベントがあったのを記憶してる人も多いのではないだろうか。イギリスのバンド、ブームタウンラッツのボブ・ゲルドフが発起人となって、ウッドストック(69年)以来という大規模ロックコンサートがチャリティを目的として行われた。ボブ・ゲルドフの提唱したこのコンサートの大理念とは、アフリカの飢餓を救済することだった。84年の末に『Do they know it's Chiristmas ?』というシングル盤をイギリスのミュージシャン有志で発売したことから端を発した。翌年これの反響を受けてアメリカの音楽家連中の間では『USA for Africa』というプロジェクトが発足し、『We are the World』というシングル曲をヒットさせた。その延長上に85年7月、ロンドンとフィラデルフィアを同時会場にして、ウッドストック以来という大規模ロックイベントを実行したものだ。アフリカ救済の名目を掲げたチャリティにどれだけの中味がありうるのかという懐疑的前提は横におけば、ロックコンサートとしての成功度は高かった。僕もそれを24時間深夜も含めて放映されたテレビで見たし(当時フジテレビがライブエイドの放映をやった。土曜から日曜の昼にかけてだったと記憶しているが)見逃したものは、その後ビデオで街中の楽器屋などで見ることができた。

当時、雑誌の「ぴあ」で浅田彰がこのイベントに辛辣な批判を寄せていたのを読んだのを覚えている。コンサート自体はいわゆる大ロックスターが勢揃いし(デビッド・ボウイからストーンズボブ・ディランまで)素晴しい盛り上がりを見せた稀なコンサートであることは確かであると感じていたので、なんかシラケタこと書く人だなと思ったことをよく覚えている。

そして去年の年末に、20年の間隔をへて、やっとこのライブエイドの全容を収めたビデオDVDが発売されたのだ。アーティストが多数参加したため、著作権上の問題がこじれて、今までこの良コンサートはビデオ化できなかったそうなのだ。僕はライブエイドの興奮の記憶を鮮烈に持っていたので、このDVDを購入した。(最近『CD』というのはめっきり買うことが少なくなったが、DVDの音楽ソフトはちょくちょく小まめに集めています。日本版のこれは高いのでアメリカ版のものをアマゾンで購入。しかしバックアップを取ってすぐ売りましたが。アメリカ版のものはリージョン1ですね。リージョン1ものは売りにいくと安く叩かれますが)

コンサート自体の盛り上がりとエネルギーはすごい。素晴しいとは思う。しかし「アフリカ救済」の抽象的前提については、20年前はよくわからなっかたが、今になってみると、その虚構性と安易さと人間の陥りやすい罠というのがとてもよく見えると思う。20年前は浅田彰の事を変なことをいうやつだと思ったのだが、今では浅田彰以上に、このチャリティ的な構成の不安定な脆さについて僕は突っ込んでしまうことだろう。ヨーロッパの歴史にとってヒューマニズムとは完成された歴史の厚みを持っているのだろうが、同時に熱しやすく冷めやすいヨーロッパ的な心性の移ろいやすい軽薄で虚構的な共生感についても、この『Save the Africa』というコンセプトの中から見て取ることができるはずだ。ヨーロッパそしてキリスト教文化圏にとって『Charity 慈善』とは何なのか、という機能性について。実際にはアフリカの問題とは難しいだろう。人口がただ無闇に増殖しているような状態だ。そういう環境で天災としての、原始的な自然淘汰としての死に委ねないで、人間の形成を整えうる体制を作らなければならないということが問題になるのだろう。そもそも近代的な意味での人間以前の状態で人口の膨張かその逆の縮減が動物的自然の形態として起こりうるのだから、ただ援助を、食料で送り込めばよいという問題でもない。惰性的に生を維持させることによって、人口をこれ以上増やしてしまうような人間の生存が正しいわけでもないのだ。

コンサート自体は実際にはよくできたものだ。いずれのアーティストも反復して見る価値があるだけ、素晴しい演奏で充実している。当時出ていたのが、若い頃のU2だったり、エルトン・ジョンだったり、ホール&オーツだったり、デュランデュランだったり、マドンナだったり、オジー・オズボーンだったり・・・。そのライブエイドが20年の時を経て今年の7月にまた復活するというのだ。出演アーティストは前回に並び、ビッグスターが揃っているようだ。私は今回もまたこれを見たいという欲望に今から強烈に駆られているものだが、しかしこのような反復される定期的な表象が、祝祭としてどのようにシステマティックに動くものなのか、今回はとても意識的に、それを観察し、分析的に見てやろうと思っている。歴史の中で繰り返される慈善的祝祭の表象である。これらの存立は構造上ウッドストックの頃から変わるはずもないものだろう。ウッドストックの時は特定の政治的テーマはなく、単に集まってきたヒッピー達の祝祭という意味しかなかったわけだが。

今回で面白いのは、ライブエイドが進化した過程で、なんとその命名がLIVE8というように変更されていることだ。この8という意味は同時期に開催されるG8の政治首脳会談に合わせてそう命名されたそうである。なんだか笑ってしまうような展開ではあるのだろうが、ボブ・ゲルドフを中心としたライブエイド主催者側に、どのような変動があったのか、想像にも別に、これは難くないのではないかと思う。前回のライブエイド・プロジェクトの内情として、アフリカ救済をテーマにした集団の中で、左翼派によって分裂劇があったのではないだろうか。ボブ・ゲルドフの立場からは、あくまでもこの『Save the Africa』というのは、保守的に、かつキリスト教的なコンセプトの中でやって収めたいということなのだろう。そういえば前回のライブエイドの時も、オープニングにはダイアナ夫妻の列席する光景があった。そしてイギリス国歌が流された。今回のライブ8において、きっと途中にプレジデント・ブッシュのメッセージが入るなんていうシーンも出るのだろう。そういえばライブエイドにおいて、ボブ・ディランが出演しても、ストーンズニール・ヤングが出たとしても、そこにはパティ・スミスラモーンズやクラッシュといった左派系アーティストが一切出てこなかったという事実は、納得がいくものだ。

今回は前回に引き続きU2が出る。(そういえばボノはそのうちノーベル平和賞を取るだろうとも言われてるくらいだが)デビッド・ボウイも出るし、ストーンズもまた出るみたいだ。個人的にはヴェルヴェット・リボルバーが出るというので、その辺に期待してみようか。ボン・ジョヴィも出るみたいだな。彼らはお祭り屋だからね。ボン・ジョヴィは大統領選の時にケリー陣営のお祭り係として、なんだか後ろのほうでもぞもぞ動いていたのが思い出されるな。